現在インディアナ州ココモで建設中の電気自動車用のバッテリー工場に対し、全米自動車労働組合の地域代表であるゲイリー・クワーク氏は警戒感を表明。「正直に言うと、人々がEVを受け入れる準備ができているとは思いません」と発言しました。
発言の背景には、電気自動車普及がガソリン車製造に関わる人々の雇用を奪うのではという危惧があります。電気で直接モーターを動かす電気自動車は、燃料からエネルギーを取り出すためのエンジンや変速のためのトランスミッションが不要なため、内部構造がシンプルだと言われています。内蔵される部品点数もガソリン車に比べ圧倒的に少なく済むため、製造に関わる人員が削減できます。組合は、電気自動車への完全移行が進むと、ガソリン車100%の場合に比べて雇用がおよそ30%減ると試算しています。組合員の雇用と賃金を守る観点から言えば、電気自動車への移行には「待った」と言いたいわけです。
ココモの新バッテリー工場では、1,400人が雇用される予定で、これだけ見れば地域経済とって歓迎すべきことです。しかし、現在すでに同地域内で自動車産業に従事している人は約5,000人と言われており、その30%に当たる1,500人分の雇用が損なわれると、実質的にはむしろ雇用が減少してしまいます。また、バッテリー工場の新規雇用の賃金水準は、既存の労働者(熟練工)のそれよりも低いと考えられます。
全米自動車労働組合は、電気自動車への移行に反対しないという公式見解を示しています。ただしそれには「EVへの移行によって職を失う組合員たちが、高賃金で雇用されることが約束された”公正な移行”である必要がある」という条件が付いています。
この問題を考えるうえで、もう1つ重要な点は、同組合は歴史的に民主党を支持してきたという事実です。その民主党が、環境政策の一環として電気自動車への移行を推し進めています。バイデン政権は就任以来、電気自動車の購入時の税制優遇や、充電器インフラの整備などへの大きな投資を次々と発表。左派エリートからの支持を集めている一方で、組合との間には亀裂が入り始めています。
2020年の大統領選勝利にも大きく貢献したとされる全米自動車労働組合。党としては、2024年の大統領選までに関係を持ち直したいと考えているはずです。今のところ、組合と企業との対立に多く干渉していませんが、今後の展開次第では何らかの介入を行うかもしれません。
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