2025年6月13日未明、イスラエル空軍はイラン中部ナタンツやフォルドウの核関連施設、弾道ミサイル製造拠点などを同時空爆した(ロイター6月13日)。イスラエル側は「核兵器用高濃縮ウラン完成が差し迫っていた」として先制攻撃を正当化しています。
イランは同日深夜から報復に転じ、弾道ミサイル数十発をテルアビブ、ハイファ周辺へ発射(BBC同日)。イスラエルの迎撃網が大半を無力化したものの、市街地への着弾で民間人の死傷が公式発表で10〜30名に上っています。イラン国内でも国連安保理報告によれば60〜90名が死亡したとされ、いずれの数字も暫定値です。
ここで重要なのは、両国正規軍が互いの本土を初めて直接攻撃した点です。両国は長らく緊張状態にありますが、これまでの戦闘行為はハマス・ヒズボラという国家勢力ではない組織を介しており、あくまで間接衝突(代理戦争)でした。正規軍が攻撃し合うことは、これまでの衝突とはまるで意味が異なるのです。
今回の出来事の重大さを理解するうえで役立つのが、国際関係論です。国際社会において生じるさまざまな事象を研究対象とする国際関係論では、戦争の原因・過程と影響に関する研究も進んでいます。国際関係論では、国家間対立の深刻度がどのステージにあるかを評価する際、以下の4段階モデルが使われます。
構造的敵対(ステージ1) ― 外交断絶や軍拡競争が続くが武力行使はない。
危機的緊張/間接衝突(ステージ2) ― 代理勢力を用いた限定的攻撃やサイバー戦。
国家間武力衝突(ステージ3) ― 正規軍が相手国領土を直接攻撃。
地域戦争・全面戦争(ステージ4) ― 多国間が参戦、民間インフラの大規模破壊。
6月13日のイスラエル空爆とイランの即時報復は、この分類をステージ2から3へと押し上げました。国連も「armed conflict between two sovereign states」と表現し、武力紛争の事実を認定。今後はどちらが先にブレーキを踏むか、あるいは外部勢力がエスカレーションを止められるかが焦点となります。
対立をさらに深め得るリスクシナリオを挙げると、ホルムズ海峡の封鎖や海上交通阻害する、米国やサウジなどの同盟国が武力介入する、イラン側が核開発施設の被害を理由に核兵器計画を公然化するなどのストーリーが考えられます。こうした懸念が現実になれば、対立はステージ4へ進むかもしれません。
緊張の高まりを受け、原油価格は13日だけで7%超上昇し、金価格も過去最高水準に接近。サプライチェーンの乱れやエネルギー調達コスト上昇など、産業への負の影響も現れています。
中東発の地政学リスクは、往々にして“次の段階”を決定づける予想外の引き金で悪化します。今はまだステージ3の入口ですが、周辺国の動向次第でステージ4に転げ落ちる可能性は十分にあります。逆に、国際社会が停戦枠組みを早期に構築できれば、ステージ2へと押し戻す道も残されています。事態の行方が世界経済に与えるインパクトは計り知れず、最新情報の継続的なモニタリングが不可欠です。
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