【この記事のポイント(Insights)】
大統領選が今年11月に迫るなか、民主・共和両党に対する支持の分析報道が増えています。そのなかでも注目されているのが、労働組合員の支持傾向の変容です。
労働組合は、歴史的に一貫して民主党を支持してきました。組合は、労働者の権利と福祉を守り、改善することを目的として活動しています。そのため、資本家と労働者の経済格差是正や権利保護に重点を置く民主党と姿勢が似通っていたのです。
第二次世界大戦以降の大統領選のなかで最大の逆転劇の原動力となったのも、労働組合による民主党支持でした。1948年に行われた、民主党員で現職大統領のハリー・S・トルーマン氏と共和党員のトーマス・E・デューイ氏が争った選挙は、冷戦下の政権不信や民主党の内部分裂などの背景により、デューイの圧勝になると予想されていました。下馬評で不利なトルーマンは、労働者の権利を守ることを公約に掲げ、社会福祉の拡大や民間の雇用創出、教育の改善のための具体案を示すことで、労働者からの支持を集めました。労働組合員票を62ポイントの大差で獲得し、総合票でもデューイを上回ったのです。
このように、民主党を支えてきた労働組合ですが、年々その傾向が薄まっています。
2020年の大統領選でジョー・バイデン氏が得た全国一般投票数は約8100万票(全体の約51%)で、これはアメリカ史上の大統領選挙で候補者が獲得した票数としては最多記録です。一方、1992年の大統領選に民主党代表として出馬したビル・クリントン氏が得た票は、約4490万票(全体の43%)でした。しかし、労働組合員からの支持に関する調査データを比べると、バイデン氏が22ポイント差での勝利だったのに対し、クリントン氏は31ポイント差での勝利で、組合員からの支持はクリントン氏のほうが高かったことが分かります。
現時点ではまだ組合員の過半数の支持が民主党に向いていますが、その差は縮まっています。バイデン氏もこのことには危機感を抱いているようで、1月31日にはミシガン州で全米自動車労働組合との会合に参加。離れ行く支持を引き留めようと必死です。
組合員の民主党支持が以前ほど強固でなくなった理由として大きいのが、両党のイメージの逆転です。かつての共和党は、白人の資本家を中心に上流階級から支持され、その既得権益を守ろうとするエリートでした。対する民主党は、資本家に搾取される労働者の味方であり、大衆の代弁者でした。しかし今は、マイノリティーや移民の社会進出により仕事を追われた白人労働者の鬱憤を晴らす共和党と、平等や社会正義を掲げ大卒エリートの共感を集める民主党というイメージに変わっています。労働者から疎まれるエリートは、もはや共和党ではなく民主党のほうなのです。
また、民主党による環境保護政策が、一部の労働者のキャリアを脅かしていることも指摘されています。特に目立つのが、自動車業界です。二酸化炭素排出量削減の観点でEV車が優遇されていますが、それはガソリン車の削減とイコールです。EV車はガソリン車に比べ、圧倒的に少ない部品数で完成します。エンジンをはじめ、ガソリン車にはあるけれど、EV車にはないパーツも多く、それらのパーツの製造に携わっている人々の仕事はすでに減り始めています。
しかし、民主党支持者のなかには、環境保全派が多いため、自動車組合員のためにEV車移行の速度を緩めるとも言いづらい状況です。大統領選まで約10ヶ月。民主党は組合員の支持を繋ぎ止められるのでしょうか?
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