過去10ヶ月、米国不動産市場は「在庫不足」傾向にあるとお伝えしてきましたが、年が明けた1月も、同じ傾向が続いています。そして住宅価格は、在庫不足=供給不足を反映するように、上昇し続けています。歴史的な低金利も手伝い、買い手が市場に殺到しているからです。
この傾向について、不動産メディア『realtor.com』のチーフエコノミストであるダニエル・ヘイルは、「アメリカのほとんどの全地域で同じことが起きている」と述べ、「売り手目線では、市場の行方がまだ不透明なため、1月の新規物件が出てくるのが遅れたのでしょう。12月の時点では、在庫状況が良くなる気配もあったのですが」と付け加えていました。
デジタル住宅所有会社『Better.com』の子会社である『Better Real Estate』のエージェントであるコートニー・ホルマンは、「昔から住宅市場は冬の間は落ち着くと言われてきました。しかし今、歴史的な低金利を受けて、物件需要が非常に高まっています。買い手はこの機会に、家を手に入れようとしているようです」と話してます。「かつてない金利に、買い手の間で“今しかない”というムードが高まっており、米国中の市場で質の高い在庫に対する需要が高まっています。不動産業界人にとっては、売り物が不足している現在の市場は非常に忍耐を要するものですが、長期的に見れば歓迎スべきことです」
在庫不足の凄まじさは、『Realtor.com』の数字が物語っています。販売可能な在庫数は60万戸未満と、2012年以来の最低水準。2020年1月の市場に出回っている住宅数は、1年前に比べて443,000戸、割合にして43%も減少しています。大幅な在庫減の影響を受けて、住宅価格の中央値は15.4%上昇。しかし2桁の上昇をものともせず、住宅が市場に出てから販売が完了するまでのスパンは、10日も速くなっています。
コロナ禍による経済ダメージからの回復は裕福な人ほど早く、貧しい人ほど長引くとする考えがあります。実際、アメリカでもK字型の景気回復(Kの字が、右肩上がりの線と右肩下がりの線に二分されていることから)が見られ、富裕層はすでに危機を脱しているとするデータが度々報じられるようになりました。
そんな状況は、高級住宅への関心の高まりにも表れています。住宅検索サービス『Redfin.com』によると、2021年1月に行われた検索の10.8%が、絞り込み条件に、100万ドル以上の価格を設定したものだったそうです。これは前年の8.5%から2.3ポイント上昇した数字で、『Redfin.com』がこのデータを定点観測しはじめた2017年以来、最高の数字です。一方、50万ドル以下の価格の住宅への絞り込み検索のシェアは36%(前年同月39.3%)と減少し、2017年9月以来の最低となりました。
この傾向は、少し前からはじまっており、米国の高級住宅販売は2020年の9月頭から11月末までの3ヶ月間に61%急増したというデータが残っています。この急上昇は、少なくとも2013年以降では最速ペースです。一方で、中価格~低価格帯の住宅の販売はここまで回復していません。
在庫不足により住宅価格の中央値が高まっていることも一因ではありますが、今日の経済情勢の中で住宅購入を考える余裕があるのは、裕福な人たちだけであることも関係していると言えるでしょう。K字回復による格差の広がりがいつまで続くか分かりませんが、しばらくの間は、高級住宅市場の盛り上がりが続くと見られます。
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