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久々の行動制限のないゴールデンウィークやマスク着用義務の緩和など、日本におけるコロナ禍もやや落ち着きを見せ始めた感があります。
アメリカも同様で、ウクライナ危機や歴史的インフレといった大きなトピックの存在や、多数の州で脱マスク化が進んでいる動きもあり、以前よりパンデミックに対する大衆の関心は薄れてきているようです。
しかし、コロナ禍を“過ぎ去ったもの”と考えるのは時期尚早かもしれません。ジョンズ・ホプキンス大学の報告によると、新型コロナウイルスによる全米の累計死者数は2022年5月中旬に100万人を突破。現在も1日約300人前後のペースで死亡者が報告されています。
そうした中で、死亡につながるような“重症化”とはまた異なるコロナ感染のリスクに注目が集まっています。それが「Long COVID」と呼ばれる症状です。
Long COVIDは新型コロナウイルス感染後、長期間にわたって症状が継続する慢性症状です。日本では感染後の「後遺症」という捉え方が一般的かもしれません。
これまで新型コロナウイルスの感染状況は、主に“感染者数”と“死者数”という2つの尺度によって計られてきました。この2つは、ウイルスの感染力の強さや、重度の肺炎や低酸素状態といった重症化リスクを把握するには重要な参考指標となります。しかし、その一方でコロナ回復後の後遺症や症状の長期化といった視点が抜け落ちてしまう面もありました。
現状では、新型コロナウイルスに感染した人の約10〜30%程度がLong Covidの症状を発症すると見られているようです。今やアメリカ人全体の約6割が、一度は新型コロナウイルスに感染した経験があると言われており、この数字に則ると、Long Covidの発症可能性を仮に10%としたとしても、全国民の約6%が慢性症状を患っていることになります。
Long Covidの症状はさまざまですが、主に以下のような症状が代表的なものとして挙げられています。
1.免疫系:免疫系の機能が低下し、他の病気への罹患や炎症等が発生しやすくなる。
2.循環系:血管の損傷や血餅により、筋肉や他組織への酸素供給が損なわれる。有酸素運動時の負荷が増し、重度の倦怠感を引き起こす。
3.脳:炎症と低酸素により、注意力、記憶力、単語発見力が低下し、持続的な認知障害が見られることも。“脳に霧がかかったような状態”と表現する人も。
4.肺:胸部X線、CTスキャン、機能検査などでは正常と診断されるにも関わらず、健康な人と比較して酸素を取り込む能力が低下する。
こうした症状が何ヶ月にも渡って慢性的に続くLong COVIDですが、経過観察はまだ始まったばかりとも言えるので、症状はさらに長く続く可能性も考えられます。
Long Covidの発症率は、ワクチンを接種している場合は3%程度まで抑えられるという報告もあります。そうしたことを考慮したとしても、行動制限の撤廃や脱マスクといった対策緩和に警鐘を鳴らす専門家も存在するようです。
例えば、ペンシルバニア大学教授で医療倫理学者のエゼキエル・J・エマニュエル氏は、ワシントンポストに寄稿したコラムで脱マスクは時期尚早であることを訴えています(※1)。エマニュエル氏の論によると、毎年交通事故で亡くなる人の割合は約16,000人に1人。それに対しLong COVIDの発症率を感染者の3%とするなら確率は33人に1人。この数字は決して楽観視できるものではない、というものです。
“感染者の3%”という数字を多いと見るか、少ないと見るかは人それぞれの判断によるかもしれませんが、重症化と違ってすぐに生死に直結するような問題ではないため、「その程度のリスクは許容範囲内」と考える人も多いかもしれません。とはいえ、思考能力や身体パフォーマンスの明確な不調を抱えながら、何ヶ月も日常生活を送るのは辛いものでもあります。なおかつ、それがいつまで続くかはっきりと分からず、明確な治療法も確立されていない状況では、不安も大きなものとなるでしょう。
こうしたことを鑑みるに、一部の専門家が述べるよう、まだしばらくの間は新型コロナウイルスを楽観視しすぎるのは禁物かもしれません。
(※1)The Washington Post,“Stop dismissing the risk of long covid”, https://www.washingtonpost.com/opinions/2022/05/12/stop-dismissing-long-covid-pandemic-symptoms/,2022-5-12
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