【この記事のポイント(Insights)】
2023年3月以降、アメリカの銀行破綻が連鎖しています。5月1日には、かねてから経営状況の悪化が報じられていた中堅銀、ファースト・リパブリックバンクの破綻が決定。これはリーマン・ブラザーズに次ぐ史上2番目の規模の銀行破綻で、同行の預金者や債務者はもちろん、金融市場全体に金融不安が広がっています。
金融機関側も、市場の不安感から来る預金引き出しの急増をはじめ、金融不安がもたらしうるリスクへの警戒を強めています。その現れが、融資引き締めです。FRBによる上級銀行貸出担当者調査では、調査対象者の多くが融資枠の縮小と融資基準の厳格化に取り掛かっていると回答。その原因として、経済の不確実性、リスク選好の低下、担保価値の低下、銀行の資金調達コストなど広範な懸念が挙げられましたが、他行の破綻が与えたインパクトは小さくないでしょう。
シカゴ連邦準備銀行総裁のオースタン・グールズビー氏は、こうした状況を「Credit Crunch(<米>信用収縮)、あるいは少なくとも Credit Squeez(<英>信用収縮)が始まっている」と独特の言い回しで表現しました。つまり、どのような形にせよ信用収縮の徴候が見られると発言したわけですが、信用収縮とは何なのでしょうか?
信用収縮とは、信用創造(Credit creation)の逆の働きです。銀行が貸し付けによって預金を創り出すことができます。銀行Aが企業Bに100万円を貸すとき、その100万円は現金として渡されるのではなく、企業Bの持つ銀行Aの口座に預金として入金されるからです。この預金を生み出す一連の働きを信用創造(預金創造)と呼びます。貸付金が返済されることは、預金の減少を意味します。
対して信用収縮は、銀行が融資枠を縮小したり、融資基準を厳格化したりすること、つまり貸し付けを減らすことを指します。新規貸し付けが減り、返済がそれを上回ると、預金規模が小さくなります。信用創造によって大きく膨らんだ信用が縮む局面という意味で、信用収縮なのです。
信用収縮が起こると、事業者が資金を調達しづらくなり、必要な投資が行えません。結果、業績不振に陥り、融資基準からさらに遠のいてしまいます。なかには倒産や事業撤退に追い込まれる企業もあるでしょう。経済への悪影響は計り知れません。
現在の状況は「融資枠を縮小したり、融資基準を厳格化したり」にまさに当てはまるわけですが、信用収縮とみなすべきかどうかには、まださまざまな意見があります。というのも、融資引き締めの原因が、公的金利の上昇である場合は信用収縮ではないと考えるのが一般的だからです。利上げ真っ只中の今、融資引き締めが金利の影響の範囲内だと考える人もいるのです。
とはいえ、冒頭でも紹介したように、銀行が金融不安を強く意識していることは間違いありません。明確な答えが出るまでにはまだしばらく時間がかかりそうですが、警戒しておくに越したことはないでしょう。
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