【この記事のポイント(Insights)】
2023年、米国の雇用統計は非常に堅調でした。12月の新規雇用数は、年末に発表されていた暫定値では16万人でしたが、年が明けて24年1月5日には21万6,000人へと大幅に上方修正されました。失業率も3.7%で、年間を通じて3%台を維持。農業従事者を除く全雇用者数は、史上最多の約1億5,700万人に達しました。
22年末時点では多くの専門家が、23年はインフレ対策のための利上げが継続し、雇用が破壊されるだろうと予測していました。利上げについてはほぼ読みどおりの展開でしたが、雇用は予想に反する好調ぶりだったと言えます。パンデミックからの復活に沸いた2021年、2022年と比べると成長率は鈍化しつつあるものの、2000年代以降では平均的な伸び率を維持しています。
好調な雇用とは対照的に苦境に立たされているのが、オフィス不動産です。ムーディーズ・アナリティクスの調査によると、23年第4四半期のオフィス空室率は40年に渡る調査史上最高の19.6%を記録しました。
過去、19.3%を超えたのは80年代後半から90年代初頭に発生したS&L危機(貯蓄貸付危機)に2度あったのみです。このときのオフィス空室率増加は主に供給過剰が原因でした。規制緩和によりS&Ls(貯蓄貸付組合)が不動産プロジェクトに対する投資を大幅に増やしたことでオフィス余りの状況に。その後、無謀な投資によりS&Lsの多くが破綻し、その余波で経済が低迷。需要も減少したことで、需給バランスの崩れが決定的になりました。
現在の空室増加は、これとは事情が違い、需要の減少が主因です。そして、その需要減を招いたのは、パンデミックと利上げです。
パンデミックにより、リモートワークが強制的に浸透しました。ウイルスの脅威度が下がるとともに、またリモートワークによるパフォーマンスの分析が進むとともに、出社回帰を打ち出す企業が増えているものの、そうした企業でも完全出社制に戻すことは稀です。従業員の多くは出社を望まない傾向にあることを理由に、出社と在宅を組み合わせたハイブリッドワークを落とし所とする企業が多いようです。その場合、出社日を分けて一日の出勤者数をコントロールすることで、オフィスの席数を節約するのが一般的です。必要なスペースが減るため、オフィス需要も減ります。
また、利上げにより借り入れコストが増大したことで、経営者たちは経費削減に追われています。オフィス賃料も当然その対象です。低金利で借り入れできていたときは、採用投資(良いオフィスに入居し求職者にアピールすることを含む)を積極的に行っていた企業も、高金利下では身の丈にあったオフィスを選びます。よりリーズナブルなオフィスに借り換える力学が働くことで、特に高級オフィスで需要減が進みました。
パンデミックも利上げも一段落というタイミングではありますが、一度変わった人々の価値基準は簡単には戻りません。2024年、オフィス不動産市場は回復するのでしょうか、ますます苦境に陥るのでしょうか?
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