2023年5月9日、バイデン大統領は債務上限引き上げを巡っての上下両院の協議に進展がなかったことを明らかにしました。現在、アメリカの債務は法定債務上限の約31兆ドルに達しており、上限引き上げまたは適用停止の合意が得られなかった場合、債務不履行(デフォルト)に陥ることになります。
この背景に、政府の財政赤字があることは事実ですが、より本質的な問題は他にあります。というのも、コロナ禍による巨大な歳出額こそイレギュラーであるものの、財政赤字自体は建国以来ほぼ毎年起こってきたことだからです。常に財政赤字でありながらも、債務が膨らめば債務上限を引き上げるという暗黙の了解によって、デフォルトを回避してきたのです。
際限なく債務上限を引き上げて良いのかという議論は必要ではありますが、もしデフォルトが現実になれば、金融混乱、金利上昇、景気悪化、政府機能の縮小など、ネガティブな影響は計り知れないため、上限引き上げによってそれ以上の悪影響がある状況はそうありません。そのため、半自動的に上限が引き上げられてきました。加えて言えば、債務が膨らみ続けていることや、債務上限を半ば自動的に引き上げているのは、アメリカに限ったことでありません。およそすべての国が同様の対応を行っていますが、ほとんどの国では上限引き上げに議会の採決が不要なため、デフォルト問題が浮上することがないだけなのです。
にも関わらず、現在アメリカをデフォルト危機に陥れている本質的な問題は、民主党と共和党の対立です。近年、民主党と共和党の対立が激化しており、債務上限引き上げ案が政争の具に使われているのです。
昨年行われた中間選挙によって、野党である共和党が下院で過半数を獲得。与党・民主党が多数派の上院に対しねじれ議会となりました。アメリカでは法律を成立させるには上下両院の合意が必要なため、共和党は民主党の政策に対し、進行を妨げたり内容の譲歩を迫ったりすることが可能になりました。
債務上限引き上げも、交渉材料、悪く言えば”人質”のように使われています。下院議長のマッカーシー氏は、債務上限引き上げに賛同する条件として、政府歳出の大幅削減を提示。これはバイデン大統領の肝入り政策であるインフラ整備法案を骨抜きにする提案で、特に社会保障や環境保護などの民主党支持層の左派の関心が強い領域への支出は大きく制限されます。現状、バイデン大統領はこの条件を飲まず、協議は平行線を辿っています。目前に迫るデフォルト期日。両党の譲歩により軟着陸するのが、デフォルトというハードランディングに突入するのか、クライマックスが近づいています。
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