2026年春、米中対立は新たな段階へ入りつつあります。これまでの関税や半導体規制とは異なり、今回焦点となっているのは「金融制裁」です。そして中国側は今、“米制裁を避ける”段階から、“制裁に従わない”段階へ踏み込み始めたとの見方が広がっています。
発端となったのは、トランプ政権が4月下旬、中国の民間製油所や海運会社に対し、イラン産原油の取引を理由に追加制裁を科したことでした。米財務省は単に製油所だけでなく、輸送や決済を支えるネットワーク全体を標的にし始めています。
これに対し中国商務省は5月2日、米制裁に対する「不承認・不履行・不遵守」を命じる異例の措置を発表しました。中国が2021年に整備した“阻止規則”を本格運用した初めてのケースだと報じられています。
重要なのは、「何が進んだのか」です。2018年以降、中国は米制裁への不満を示しつつも、実務面では米ドル決済網や SWIFT から排除されるリスクを強く警戒してきました。実際、中国企業や銀行の多くは「制裁されない範囲」で行動し、ドルアクセス維持を優先してきました。
しかし現在、中国は制度面・決済面・物流面で、“制裁耐性”を持つインフラを現実に動かし始めています。代表例が、中国主導の人民元決済網「CIPS」です。参加金融機関網は拡大を続け、人民元による越境決済も増加しています。さらに、中国は香港やシンガポールなど第三国拠点を活用し、商流や資金流を組み替える動きも強めています。Reutersは4月、中国の大手民間製油所がシンガポール拠点の持株構造を見直したと報じました。
もっとも、これは「ドル覇権の崩壊」を意味するわけではありません。実際、世界決済に占めるドル比率は依然として圧倒的であり、人民元はなお限定的です。また、BloombergやReutersは、中国当局が一方で大手銀行に対し、制裁対象製油所への新規融資停止を口頭で求めたとも報じています。 つまり、中国自身も今なお米国の二次制裁を恐れているのです。
それでも、今回の動きが重要なのは、「ドル以外では何もできない」という時代が少しずつ揺らぎ始めている点にあります。背景には、ロシア制裁があります。ロシアはウクライナ侵攻後、中国との資源取引を急速に人民元化しました。中国側もそこから、「制裁される前提」で決済・物流・法制度を準備してきたとみられています。
米国にとって、金融制裁は軍事力に匹敵する強力な武器でした。しかし、その強さゆえに、各国へ「ドル依存は危険」という動機を与え始めている側面もあります。BIS(国際決済銀行)も、米国の金融ネットワーク支配が強いほど、代替インフラ構築の誘因が生まれると指摘しています。
世界経済にとっても影響は小さくありません。これまでのグローバリズムは、「最も安い」「最も効率的」なネットワークへ資金や物流を集約する仕組みでした。しかし今後は、「制裁されない」「決済が止まらない」こと自体が重要な価値になっていく可能性があります。
特に日本企業にとっては、「どの国と取引するか」だけでなく、「どの銀行、どの港湾、どの決済網を通るか」が経営リスクになり始めています。
現時点で、ドルとSWIFTの優位は依然として揺らいでいません。ただ今回、中国が示したのは、“米制裁に対抗する法・決済・物流インフラ”を、ついに実運用し始めたという事実です。世界は今、「ドル中心の単一金融秩序」から、「複数の決済圏が並立する時代」への入口に立ち始めているのかもしれません。
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