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AIチップ関税25%は序章に過ぎない。各国が警戒する次のフェーズとは?

作成者: 海外不動産コラム 編集部|2026.02.19

【この記事のポイント(Insights)】

  • 1月の25%関税は半導体全体ではなく、性能条件でAIチップを狙い撃ちする設計。
  • 例外枠が厚いのは、米国内のAI投資を止めずに交渉カードにする狙い。
  • 本丸は第2フェーズ。台湾、韓国、中国の動向が次の相場材料になる。

 

2026年1月、米国は「AI向けの先端チップ」に25%の追加関税をかけました。見出しだけ見ると“半導体関税”ですが、実態はもっとテクニカルで、そして政治的です。結論から言うと、今回の一手は「半導体を罰する」よりも、「AIの供給網を握り直す」ための設計に見えます。

本記事では、複雑な関税設計を噛み砕いて解説しつつ、その裏にある意図を読み解きます。

関税対象はごく限られた製品。緻密に設計された対象条件。

トランプ大統領は、1月14日に「半導体、半導体製造装置、およびその派生製品の米国への輸入調整」と題する布告を発表し、1月15日00:01(米東部時間)からただちに効力を発揮しました。米国の税関手続き上「追加でこの税率を乗せる」という枠組みで動きます。つまり、現在の関税にさらに25%が上乗せされるということで、対象企業にとっては利益率に直撃し得ます。

対象はチップそのものだけでなく、それを内蔵する製品にも及びます。米国は輸入品を細かい番号(分類コード)で管理していますが、今回は「コンピューター本体や周辺機器、それらの部品」に当たる分類が対象になります。具体的には3つのコードで、噛み砕いて説明すると以下のような品目が該当します。

  • コード8471.50:コンピューターの本体側(処理の中心)にあたるもの
  • コード8471.80:コンピューターの周辺機器や関連ユニットにあたるもの
  • コード8473.30:コンピューターに使う部品・付属品にあたるもの

こう見ると、多くの製品に追加関税がかかるように感じますが、実は影響を受けるのはごく一部です。というのも、この分類に入る製品のうち、さらに「性能条件」と「用途条件」を満たすものだけが対象になるからです。

「性能条件」によって、対象は「半導体の全部」ではなく「AIの計算に使うような先端チップ」、なかでも性能が一定の条件に当てはまるもののみに絞られます。条件はTPP(総処理性能)やDRAM帯域といったチップ性能を測る数値で具体的に示されており、その算出方法まで指定するほどの念の入れよう。TPPが14,000〜17,500かつDRAM帯域が4,500〜5,000GB/s、またはTPPが20,800〜21,100かつDRAM帯域が5,800〜6,200GB/sのように、かなり詳細に指定されており、具体的な製品を考慮しながら設計されたことは明白です。

また「用途条件」に当てはまらない場合は、「追加0%(実質除外)」が適用されます。例えば、以下のような用途であれば除外となりやすいようです。

  • 米国内のデータセンターで使う目的
  • 研究開発の目的
  • 修理や交換の目的
  • 新興企業の開発用途
  • データセンター以外の一般用途(産業用途や民生用途)
  • 公的機関の用途

要するに、米国としても「AI投資そのものを止めたい」わけではない、ということです。AIにお金が集まっているのは米国自身ですから、ここを壊す設計にはしづらい。だから「狙い撃ち」しつつ「広めの逃がし口」も作っている、という構図になります。

マイルドにスタートしつつ、「第2フェーズ」を匂わせる二重設計

これほどに対象を緻密に絞った背景には、市場への影響を最小限に抑えるためだと考えられます。関税関連のニュースで市場が一番嫌うのは、「積み上がって青天井になること」だからです。特に先端チップを購入する企業には米株式市場を牽引するAI関連銘柄も含まれるため、コスト上昇は米国内の投資の妨げになりかねません。

政治的には強く見せつつも、市場は混乱させないようマイルドな設計に。強引に見えて実は現実的な、トランプ政権らしい運用です。ただし、今回だけを見て安心するのは早計です。

理由はシンプルで、「第2フェーズ」があることが布告のなかで明確に示唆されているからです。布告には、ごく狭いカテゴリへの25%追加関税の即時発動(つまり今回の措置)のあと、交渉後により広範な半導体へ“significant(相応に大き)”な関税を検討すると書かれています。

さらに、米国内に投資する企業を優遇するような仕組み(関税を軽くする、実質相殺する、といった発想)も話に出てきます。ここはまだ“確定ルール”というより“方向性”の段階ですが、市場が警戒するのはまさにこの部分です。

つまり、先端AIチップ関税を読み解くうえでの本題は、今回25%の追加関税がスタートしたことよりも、次の段階です。関税対象はどこまで広がり、どんな税率となり、どんな条件で例外が認められるのでしょうか。

先端チップの主要プレイヤー(中国、台湾、韓国)の反応

この関税について、先端チップの主要なプレイヤーはどう反応したのでしょうか?

台湾:「生産能力の大幅移転は無理」=生態系は動かせない

世界的な生産地の1つである台湾は、関税の文脈とも絡めて米国側が求めている米国内生産への転換は拒否する姿勢で、「(生産の)大幅移転は不可能」という趣旨の発言をしています。半導体は工場だけ移して終わりではありません。人材、装置の保守、部材の供給、関連企業の集積まで含めて成り立つ“生態系”です。そこは簡単に動かせない、という理屈です。

一方で、台湾も米国への投資自体は進めます。つまり、「投資はするが、全部は移さない」という二層構えで交渉を進めている格好です。

韓国:「当面の影響は限定的」だが、第2段階が怖い

同じく生産地である韓国ですが、今回の第1段階は韓国の主力領域に直撃しにくいので、短期の影響は限定的という趣旨のコメントを出しています。ただし本音は、「次の段階で対象が広がるなら話が変わる」と考えているでしょう。ここは台湾も韓国も共通です。

中国:「薄い反応」の裏側。本丸は第2フェーズ

中国も第1フェーズの関税の影響は受けにくいため、薄い反応です。この件について問われた外務省報道官は個別の論点に踏み込まず、『立場は既に表明済み』と述べるに留めました。中国にとっての本丸は、狭い25%よりも交渉後に検討されるという第2フェーズでしょう。布告にはより広い半導体へ関税を検討し得るとあり、中国の輸出製品も対象となる可能性があるからです。

25%は序章。主戦場は「例外設計」と「運用」

このニュースを“地政学の物語”として追うと情報量が多すぎます。投資判断の材料として割り切るなら、見るべきは3つです。

  1. 第2段階が来るか、来るなら範囲はどこまでか
  2. 例外(除外)の条件がどう運用されるか
  3. 投資優遇(例外枠)の条件がどう固まるか

この3つが固まると、米国株(特にAI周辺)の見通しも立てやすくなります。逆に言えば、ここが定まらない間は、ボラティリティが出やすい局面です。

今回の25%関税は、半導体全体を一律に叩くものではありません。現代の最重要産業であるAIビジネスに不可欠な先端チップをターゲットにしつつ、米国内の投資を止めないための例外も厚めに用意しながら、交渉を優位に進めるための土台をつくる。ここに設計思想があります。 この点を踏まえると、「関税ニュース」の見え方が一段変わるはずです。

 

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