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【賃貸・家賃インフレ篇】トランプ関税は不動産市場に何をもたらすか?(第4回/全4回)

作成者: 海外不動産コラム 編集部|2025.05.16

【この記事のポイント(Insights)】

    • トランプ関税による建築資材価格の上昇が新築賃貸の供給を抑制し、結果的に家賃の上昇圧力となっている。
    • 修繕費や保険料の上昇など、既存物件の維持コストも家主の負担を増やし、借り手に“見えにくい関税インフレ”が及んでいる。
    • 賃貸需要は堅調だが、利回り確保は難化しており、投資家は目的に応じて価格帯・地域別に慎重な選定が求められている。

トランプ関税が不動産市場にもたらす影響を紐解いてきたシリーズの最終回のテーマは「家賃」。関税が住宅の建築費を押し上げていることはよく知られていますが、その影響を受けるのは「家を買う人」だけにとどまりません。実は今、賃貸市場でもジワジワと“関税インフレ”が進行中です。


本記事では、家賃にまで波及する関税の間接的な影響と、その背後にある供給構造、さらには投資家にとってのリスクとチャンスについて解説していきます。


未読の方はシリーズ過去回の記事もぜひ合わせてお読みください。


第1回【建築コスト篇】
第2回【住宅ローン金利篇】
第3回【価格帯別市場トレンド篇】

 

関税が家賃に影響を及ぼすメカニズム

「家賃に関税なんて関係ないのでは?」と思われがちですが、実はそうとも言い切れません。確かに家賃そのものは輸入品ではありませんが、賃貸物件の「建設」「修繕」「維持」にかかるコストの多くは、輸入建材や設備に依存しています。トランプ関税は、鉄鋼・アルミ製品への25%の追加関税は、建築資材の価格を大きく押し上げました。


その結果、新築賃貸物件の供給は抑制され、既存物件の希少性が高まります。新しい賃貸物件が建たない、または建っても高コストのため高額な家賃でしか貸せない。そんな状況になれば、当然、既存物件の競争率が上がり、家賃が上昇します。更新時の賃料引き上げ、新規入居時の募集価格アップも、この流れの中で加速します。


さらに、家賃は経済全体にも波及します。米国のCPI(消費者物価指数)に占める「Shelter(住居費)」の割合は約3割であり、その中でも「OER=持家の帰属家賃」や「Rent=実際の家賃」は重要な構成要素です。家賃が上がればインフレが加速し、FRBは金利を下げにくくなり、その結果としてローン金利も下がらず、不動産全体が冷え込みやすくなります。つまり家賃の上昇は、住宅市場だけでなくマクロ経済全体にまで影響を与える構造的なトリガーとなり得るのです。

新築賃貸物件の供給はすでに減少傾向

関税による建築資材の価格上昇は、事業者の新規開発意欲を大きく削いでいます。NAHB(全米ホームビルダー協会)の試算によれば、関税の影響によって新築住宅1戸あたりの建設コストは最大1.2万ドル程度上昇したとされています。


このコスト上昇に加えて、2022年以降の利上げによる建設融資の金利上昇が重なり、賃貸用アパートの開発は難航しています。特に集合住宅(multifamily)の着工件数は大幅に減少しており、2025年も前年比でさらに10%以上減少するという予測が出ています。建設費の高騰と融資条件の悪化という“ダブルパンチ”により、事業採算が合わなくなっているのです。

当然、開発コストが跳ね上がればオーナー側はその分を回収する必要があります。結果として、新築物件の家賃は高額に設定されがちになり、市場全体の賃料水準を押し上げることになります。

関税によるコスト増は、新築プロジェクトだけじゃない。借り手に転嫁される「隠れ関税」

新築供給の減少だけではありません。既存物件を維持・運営するためのコストも、関税の影響を受けています。たとえば、修繕に使う床材・配管部材・住宅設備などの多くは輸入品です。これらの価格が上昇すれば、家主の出費は増え、最終的には借り手に転嫁される可能性が高くなります。


こうしたコスト増は家賃に明示的には表示されません。借り手にとっては「なぜ値上げされるのか分からない」まま、更新時に数%の値上げ通知が届くといった構図になりやすく、“気づきにくい関税インフレ”とも言えます。


また、関税とは関係がない理由でも、保険料や固定資産税、光熱費などが高騰しており、家主はさまざまな費用増に直面しています。例えば2024年にはフロリダ州などで保険料が平均45%上昇したというデータもあり、それが家賃に影響しているのは明らかです。


とはいえ、すべての地域で家賃が上がっているわけではありません。たとえば、テキサス州オースティンやアリゾナ州フェニックスなどでは、2021年からの供給ラッシュの結果として空室率が上がり、2025年には家賃が前年比でマイナスになっている地域もあります。一方で、ニューヨークやシカゴ、マイアミなどでは需給バランスが逼迫しており、5%以上の家賃上昇が見られています。

賃貸オーナーにとってはチャンス? ピンチ? 

賃貸オーナーを取り巻く市場環境は、「収益機会」と「収支圧迫」が同居する難しい局面にあります。確かに家賃は高止まりしており、住宅を購入できない層が賃貸に流れてきているため、需要は堅調です。入居率も多くの都市で90%以上を維持しており、安定的な収益が見込める状況にはあります。


とくに注目されているのが、「SFR(Single Family Rental)=戸建賃貸」のセグメントです。広さ・プライバシー・郊外立地などが支持され、Build-to-Rent(賃貸専用に建てられる住宅)への投資が加速しています。2025年もBTR物件への機関投資家の関心は高く、今後の成長分野として期待されています。


ただし注意が必要なのは、表面利回りが以前より低下している点です。物件価格の高騰と金利の上昇により、キャッシュフローを出すのが難しくなっている物件も少なくありません。特に高価格帯や都市部の物件では、家賃は上げにくく、利回りの確保が課題となっています。


今、米国の住宅に投資するなら、最低限、以下のポイントに気を配りたいものです。

  • 為替を利用したドル建て収入のヘッジ先として、米国賃貸物件を検討する
  • キャッシュフロー重視なら、中西部や南部などの低〜中価格帯の都市を狙う
  • キャピタルゲインを狙うなら、供給制限がある都市部の高級賃貸に目を向ける

家賃は、インフレ、関税、金利といった経済変数の“出口”にあたる指標です。その動きを見極めることは、不動産投資家にとって非常に重要です。賃貸市場のゆるやかな変化の中にこそ、次の投資機会が眠っているかもしれません。

 

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