【この記事のポイント(Insights)】
USスチール買収騒動で日本製鉄に対抗したクリーブランド・クリフス社のCEOの問題発言が大きな話題になっています。日本そのものを強く批判した発言は、日本国内はもちろん、国際的に顰蹙を買っています。本記事では、発言の張本人であるゴンカルベス氏の経歴や人物像をご紹介します。
クリーブランド・クリフス社のCEOであるローレンソ・ゴンカルベス氏は、2023年にUSスチールの買収を巡って注目を集めました。
ゴンカルベス氏はUSスチールの買収提案を積極的に主導し、競合する日本製鉄に対抗しました。自社の提案が米国鉄鋼業界の利益を守るものであると主張し、労働組合の支持を得ることに成功。一方で、買収提案のために提示した金額は73億ドルと、日本製鐵が提示した143億ドルのおよそ半分に留まったため、USスチールは日本製鉄との交渉を進めていました。その後、バイデン政権が安全保障上の懸念を理由に介入し、買収交渉は白紙となっています。
そんななか、ゴンカルベス氏が2025年1月13日の記者会見で問題発言を行いました。この場で彼は、日本製鉄のUSスチール買収計画に反対する理由として、日本そのものを批判する主張を展開。「中国は悪だ。中国は恐ろしい。しかし、日本はもっと悪い。日本は中国に不当廉売や過剰生産の方法を教えた。日本よ、気をつけろ。(中略)1945年から何も学んでいない」などと強い言葉を用いました。この発言は、日本国内に留まらず、国際社会からも大きな批判を浴びました。
米国メディアも、ゴンカルベス氏の発言を批判的に報道。この発言が米国と日本のビジネス関係や国際的な協力に悪影響を及ぼす可能性があると指摘しています。ウォール・ストリート・ジャーナルは、彼の主張がビジネス上の合理性を欠いており、感情的な発言として捉えられる可能性が高いと論評しました。
彼の発言を、米国の鉄鋼業界を守るための強い意志として支持する意見も一部見られるものの、その数は限られています。
ローレンソ・ゴンカルベス(英表記:Lourenco Goncalves)氏はブラジル出身で、冶金工学の学士号と修士号を取得した後、鉄鋼業界でのキャリアを積んできました。彼は、ブラジルのCompanhia Siderúrgica Nacionalや、アメリカのCalifornia Steel Industries, Inc.で要職を務めた後、2014年からクリーブランド・クリフス社のCEOに就任しました。
フォーチュン誌はUSスチールの買収騒動が表面化した2023年8月にゴンカルベス氏を特集。その中で彼を「The Elon Musk of steel(鉄鋼業界のイーロン・マスク)」と表現しました。この異名は、彼の大胆な戦略や積極的な発言、そして業界を変革しようとする姿勢をイーロン・マスク氏になぞらえたものです。
ゴンカルベス氏は、多くの買収を主導したことでもマスク氏と重なります。彼がクリーブランド・クリフス社のCEOとして成功させた買収の一例を挙げます。
AKスチール(2020年):2019年12月、クリーブランド・クリフスはAKスチールを株式交換により買収することで合意しました。この取引では、AKスチールの企業価値を約30億ドルと評価しています。
アルセロール・ミッタルUSA(2020年):2020年9月、クリーブランド・クリフスはアルセロール・ミッタルの米国事業を約14億ドルで買収することで合意しました。この取引により、クリーブランド・クリフスは北米最大の圧延平鋼生産者となりました。
Ferrous Processing and Trading Company(2021年):2021年10月、クリーブランド・クリフスは鉄スクラップ事業への参入を目的として、Ferrous Processing and Trading Companyを買収しました。具体的な買収金額は公表されていませんが、米国内4拠点に加えカナダとメキシコにも拠点を持つ大規模な企業です。
これらの買収は、クリーブランド・クリフス社を米国最大級の鉄鋼メーカーへと押し上げる原動力となりました。
強引な部分も見られるものの、その経営手腕は概ね高く評価されてきたゴンカルベス氏ですが、問題発言を行う悪癖が以前からあるようです。
2018年10月、ゴンカルベス氏は同社の業績発表後に行われたアナリストとの電話会議で、アナリストに対して「あなたたちは失敗だ(You are a disaster)」や、「彼らは自殺するしかなくなるだろう(They will have to commit suicide)」といった極めて強い表現を用いました。この発言は明らかなハラスメントであり、多くの批判を招きました。
今回に限らず、物議を醸してきたゴンカルベス氏。USスチール買収の決着が付くまでに、さらなる問題発言が飛び出さないか、クリフス社の広報担当たちは胃が痛いかもしれませんね。
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