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【建築コスト篇】トランプ関税は不動産市場に何をもたらすか?(第1回/全4回)

作成者: 海外不動産コラム 編集部|2025.04.29

【この記事のポイント(Insights)】

  • トランプ政権の新関税により、住宅建築に使われる資材価格が急騰し、新築1戸あたり約1.2万ドルのコスト増となっている。
  • 建材高騰は着工遅延と供給不足を招き、既存住宅の価格にも波及している。
  • 投資判断には、建築方式や地域別コスト差、最新の建築コスト指標を押さえることが重要だ。

世界の経済に多大な影響を与えているトランプ関税。米国不動産市場も例外ではありません。そこで、トランプ関税が米国の不動産市場にどのような影響を与えるのかを全4回のシリーズで考察します。

第1回のテーマは「建築コスト」。住宅建築に必要な資材の多くは輸入品であり、それらに課される関税が新築コストに直接的な影響を与えています。本記事では、建築資材の輸入依存構造と関税の実態、そしてそれが不動産価格や着工数、ひいては投資判断にどのような影響をもたらしているのかを、実例とデータを交えてわかりやすく解説します。

輸入資材に頼る米国住宅。関税は建築コストを跳ね上げる。

米国の住宅建築に使われる主な資材には、鉄鋼、アルミニウム、木材、そして各種内装用パネルや設備類などがあります。これらの多くが海外からの輸入に頼っているのが現状です。たとえば、ソフトウッド材はカナダからの輸入が全体の約9割を占めており、米国全体としては木材全体の約24%を輸入に依存しています。鉄鋼やアルミニウムに至っては、輸入比率はそれぞれ約30%前後にのぼります。

そんな中で発動されたのが、トランプ政権による一律10%の基本関税と、鉄鋼・アルミニウムに対する25%の追加関税です。これにより、たとえば鉄骨は1tあたり+26%、アルミサッシは+22%といった形でコストが上昇。建築費全体への影響は避けられません。

実際に、全米ホームビルダー協会(NAHB)は「関税によって新築住宅1戸あたりの平均建築コストが約1.2万ドル上昇した」と試算しています。この負担増はディベロッパーや建設業者にとって大きな打撃であり、工事見積もりの有効期限を従来の30日から14日に短縮したり、材料費変動をカバーするためのデポジット金額を引き上げるなど、さまざまな対策が講じられています。

着工の遅れにより供給が不足。需給バランスの乱れで既存物件の価格も上昇

関税による建材コストの上昇は、価格の問題だけでなく、工期や着工数にも影響を及ぼしています。ニューヨーク市内で進行中だった150戸規模のコンドミニアム開発では、構造用鉄骨の見積りが再発注となり、結果として工期が6週間遅れるという事態が発生しました。これは一例に過ぎず、同様の遅延は全米各地で見られています。

建築資材の不安定な価格と供給の問題は、全体の着工数にも反映されています。木材系資材の価格上昇を受け、2025年の全米住宅着工予測は当初の138万戸から135万戸へと下方修正されました(Forisk予測)。また、連邦準備制度理事会(FRB)が発表した4月のベージュブックでも「関税による建設案件の延期とコスト転嫁懸念」が全地区で報告されており、影響の広がりが伺えます。

資材調達の面では、メキシコから輸入していた内装用パネルやキャビネットを国内生産に切り替える企業も出てきていますが、この“サプライチェーン再構築”にも時間がかかり、結果的に納期遅れの要因となっています。こうした中で、ビルダーの景況感を示すNAHB/HMIは、4月時点で40。50を下回ると悲観的とされるこの指標が12カ月連続でネガティブ圏にとどまっており、「Tariff Uncertainty(関税不確実性)」が投資家心理を冷やす主要因のひとつとなっています。

投資家へのヒント:ヘッジとチャンス

関税による混乱は、投資家にとってリスクでもありチャンスでもあります。

建設企業の株式に投資する場合、ビルダーの「コスト転嫁力」や「建築方式」に注目するのが良いでしょう。関税率の上げ幅があまりに大きいため、値上げせず価格を据え置ける企業は稀です。しかし、無策のまま販売価格を上げると、売買のスピードが落ちてしまいます。重要なのは価格を上げても売買数を保つためのコスト転嫁力があるかどうか。その判断材料として、金利バイダウンなどのインセンティブ提供率や粗利益率に注目するのがよいでしょう。

「建築方式」が重要なのは、資材の使用量に大きく影響するからです。モジュラー建築やオフサイト建築といった、省施工・省資材型の建築手法を採用している企業やREITは、関税の影響を相対的に受けにくいとされています。これらの事業者への分散投資は、有効なヘッジ手段となり得ます。

物件を購入する場合、地域による影響差が重要です。たとえばテキサス州やアラバマ州などの内陸部では、港湾物流に依存せず資材の陸送比率が高いため、関税によるコスト上昇の影響が比較的小さいとされます。対して、西海岸エリアは港湾経由の輸入資材依存度が高いため、コスト上昇幅も大きくなる傾向にあります。

こうした影響を把握するには、NAHBが毎月発行している「Building Materials Trade Policy」や、米労働省が公表している「Producer Price Index – Construction Inputs」などの指標に注目するのが効果的です。

関税はしばしば“隠れ立地コスト”とも言われます。土地そのものは安くても、輸送費や資材費が跳ね上がれば、最終的な利回りは大きく削られる可能性があります。だからこそ、材料価格・為替・金利という三つ巴の影響を俯瞰し、柔軟かつ冷静な投資判断を下すことが、これからの時代にはますます重要になってくるのです。

 

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