【この記事のポイント(Insights)】
住宅市場を動かす要因は金利やインフレだけではありません。トランプ関税は、住宅価格帯ごとに異なる波紋を広げています。
この記事では、低・中・高の各価格帯が今どう動いているのか、そして投資家にとってどこにチャンスがあり、どこに注意すべきかを解説します。
2025年の不動産市場は、「全体的に価格が上がった」「ローンが組みにくくなった」といった一律の話では語れません。むしろ、市場の分化が進み、価格帯ごとに全く異なるトレンドが見られるようになっています。
背景にあるのは、住宅ローン金利の高止まりと建築コストの上昇です。トランプ政権の打ち出した一律10%の輸入関税、そして鉄鋼・アルミなどへの追加25%関税は、建材価格を押し上げ、新築供給の採算を難しくしています。さらに、7%台に乗った住宅ローン金利は、買い手の借入可能額を大きく削っています。
こうした環境では、低・中・高の各価格帯で「誰が買えるのか」「どんな物件が動いているのか」が大きく変わってきます。今回は、アメリカ不動産業界で一般的に使われる価格帯分類(下位3分の1=低価格帯、中位=中価格帯、上位3分の1=高価格帯)に基づき、それぞれの動向を見ていきます。
今、最も苦しい立場に置かれているのが、25万ドル以下の低価格帯です。ローン金利が7%を超える状況では、FHAやVAといった政府支援型ローンを利用する層、すなわち初回購入者や低所得層が最もダメージを受けています。月々の支払いが跳ね上がり、ローン審査にも通りにくくなるからです。
その結果、低価格帯の住宅は「誰も手を出せない価格帯」になりつつあります。売れず、でも価格は大きく下がらない。なぜなら在庫自体が極端に少なく、売り急ぎもないからです。流動性が低下し、「売りたくても売れない」「買いたくても買えない」市場、いわば“凍結ゾーン”となっています。
さらに問題なのは、新築供給がほとんど期待できないこと。建築コストが上がった現在、25万ドル以下で建てて採算が合う物件は限られ、NAHB(全米ホームビルダー協会)も「この価格帯からは撤退せざるを得ない」とコメントしています。
投資家にとっては、ここは非常に扱いが難しいゾーンです。キャッシュフローは一見良さそうでも、家賃を上げにくく、退去後の空室リスクが高い。出口戦略も読みづらく、慎重な見極めが必要です。
30万〜60万ドルの中価格帯は、実需層と投資家が交差するゾーンです。ローン金利の影響で購買力は削られましたが、それでも郊外のファミリー層やセカンドホーム需要が底堅く、一定の取引が続いています。
特に郊外型の新興住宅地や、2戸1物件(duplex)など賃貸併用が可能な物件は、高所得層が低価格帯を避けて流れてくることで支持を得ています。また、2023〜2024年にかけて大幅に値上がりした物件の一部が価格調整され、投資家にとっては「今なら割安に見える」物件が増えてきたのも特徴です。
建築コストの上昇はここでも影響を与えていますが、それでもディベロッパーにとっては「売れる価格帯」なので、中価格帯の供給は比較的堅調に続いています。新築ではローンバイダウンなどのインセンティブが付きやすく、交渉次第で実質的にお得に買えるケースもあります。
投資家にとっては、キャッシュフローと値上がり益のバランスが取りやすく、資産分散先として狙いやすいレンジです。物件選定と交渉がカギとなります。
80万ドル〜100万ドル超の高価格帯は、明らかにプレイヤーが絞られてきています。ローン利用を前提とする購入者は減少し、現金バイヤー、あるいは超高年収層が中心の市場となりつつあります。
それでも、値崩れは起きていません。むしろ、移住人気エリアでは「値下げなしで売れる」ケースも出てきています。たとえば、フロリダ州ナポリやテキサス州オースティンといった都市では、リタイアメント層やテック系富裕層が現金で購入する例が後を絶ちません。
高価格帯でも建築コストは上がっていますが、このゾーンのバイヤーは「資材原価」ではなく、「立地」「ブランド」「仕様」で価値を判断するため、価格には鈍感です。ハイエンド住宅市場は、資産としての側面が強く、マクロ経済の影響を相対的に受けにくい傾向があります。
日本人投資家にとっては、これは為替も含めた資産戦略の一部として検討されるゾーンです。為替ヘッジをせずドル建てで保有し、長期的に為替益とキャピタルゲインの両方を狙う。そういった「富裕層型」の戦い方ができる人向けですが、成功すれば大きなリターンを見込めます。
このように、現在の不動産市場は価格帯ごとにまったく異なる動きを見せています。低価格帯は買い手不在の凍結ゾーン、中価格帯は調整局面からの再構築、高価格帯は現金主導で堅調に推移。つまり、同じ「住宅投資」といっても、価格帯を変えれば戦略も変わるということです。
投資家としては、予算と目的に応じて「どのゾーンで何を狙うか」を明確にすることが肝心です。短期での賃貸収益を求めるのか、中長期での資産成長を目指すのか。それによって選ぶ価格帯も、見るべき指標も変わってきます。
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