【この記事のポイント(Insights)】
「アメリカは資本主義の国」。長らく常識とされてきたこのイメージが、いま揺らぎ始めています。2025年8月に公表されたギャラップの最新世論調査によれば、資本主義に好意的な米国人は全体の54%。2010年の61%から年々低下しています。特に民主党支持層では資本主義肯定派は42%にとどまり、逆に社会主義を肯定的に見る人は66%に達しました。
つまり、少なくとも民主党の支持基盤では「資本主義より社会主義」という逆転現象が生じているのです。この記事では、こうした数字の推移、非資本主義的な思想を掲げる政治家たちの台頭、その背景にある生活の現実、日本との比較を通じて、米国で起きている思想の移ろいを紐解いていきます。
ギャラップ調査によると、2010年に資本主義を肯定的に見ていた米国人は61%でした。ところが2025年には54%まで低下。数字だけ見れば大きな落ち込みではないように感じるかもしれませんが、15年間の継続的な減少という点に意味があります。
特に目立つのは民主党支持層です。資本主義を肯定する割合は42%にとどまり、社会主義を肯定する割合は66%。つまり「資本主義を支持する人よりも社会主義を支持する人のほうが多い」状態になっています。50歳未満の民主党支持層に限れば、資本主義肯定は2010年の54%から2025年にはわずか31%へと大きく落ち込みました。
一方で共和党支持層は対照的です。資本主義を肯定する割合は74%と依然として高く、社会主義肯定は14%にとどまります。党派間の溝は広がる一方で、経済思想の分断が鮮明になっているといえます。
「アメリカ=圧倒的に資本主義を信奉する国」という像は、少なくとも民主党系の有権者に関しては確実に変質しているのです。
こうした数字の変化は、単なる統計上の偶然ではありません。その背後には、「資本主義の見直し」を真正面から語ってきた政治家たちの存在があります。
バーニー・サンダース
無所属ながら民主党予備選に出馬したサンダース上院議員は、自らを「民主的社会主義者」と名乗り、2016年と2020年の大統領選で全国区の支持を集めました。「1%の富裕層と99%の国民」という構図を打ち出し、格差是正を旗印に掲げたそのメッセージは、既存政治に不満を持つ若年層を強く惹きつけました。
アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)
ニューヨーク選出の下院議員AOCは、28歳での当選時から注目を集め、「グリーンニューディール」という気候変動と雇用を一体で考える政策を提唱しました。民主社会主義者の団体DSAに属し、SNSを駆使して若者世代に響く言葉で語りかけ、社会主義的な価値観を大衆化させました。
ゾーラン・マムダニ
そして2025年、ニューヨーク市長選の民主党予備選で勝利したのがゾーラン・マムダニです。自らを民主的社会主義者と呼び、元州知事のアンドリュー・クオモを破って大きな話題となりました。かつては「社会主義」という言葉自体が蔑称に近かった米国で、それを堂々とアイデンティティに掲げて勝利したことは象徴的です。
数字の推移は、こうした政治家たちが世論の地層を掘り替えてきた結果であることがわかります。
思想の変化は、日々の暮らしに根ざした現実とも直結しています。
要するに、現役世代の多くは「制度を丸ごと壊す」ことを望んでいるのではなく、「資本主義を時代に合わせて再定義してほしい」と考えているのです。
米国の分断は、経済思想にもくっきり表れています。
共和党は資本主義を「自由と繁栄の源泉」と位置付け続け、社会主義は「政府の過剰介入」として一貫して否定的です。対して民主党支持層、とりわけ若年世代は、資本主義を「不公平を生む仕組み」と捉える傾向が強まりました。
公平性をどう評価するか。この認識のギャップは、単なる政策論争を超えてアイデンティティや価値観の違いとなり、分断を固定化しています。
ここで視点を日本に移しましょう。
共通点として、日本でも格差拡大への不安や生活コスト上昇、政治不信が広がっています。内閣府の調査では、約8割の国民が生活に不安を抱えていると答えています。
しかし相違点もあります。日本は皆保険制度や比較的厚い公的支援を持ち、「社会主義」という言葉を前面に出す政治運動は根付いていません。若者の不満は政治参加ではなく、投票離れや無関心といった形で表れやすいのです。
ただし、若年層の閉塞感が積み上がれば、日本でも制度の「再定義」を求める声が強まる可能性はあります。米国の変化は、将来の日本を映す鏡になり得ます。
米国民主党にとっての課題は、「社会主義」というラベルをどう扱うかです。中道層の票を逃すリスクと、若年層の支持を得るチャンスのトレードオフに直面しています。
今後の思想の行方を左右するのは、「生活費危機」への処方箋です。医療や教育の負担をどう軽減するか、住宅供給をどう拡充するかといった具体策が焦点になります。
企業や投資家にとっても、もはや資本主義の枠組みが固定的ではないことを前提に考える必要があります。政策リスク、再分配や規制強化の波、サステナビリティ重視といった「制度の再設計」に耐えうる長期視点が不可欠です。
ギャラップの調査が示すように、米国における資本主義の“絶対的支持”は磨耗しつつあります。今の潮流は「資本主義の否定」ではなく「資本主義の再定義」を求めるものです。その背景には、政治家の語りと、世代が抱える生活実感が呼応している構図があります。
「アメリカは資本主義の国」という常識は、もはや絶対ではありません。米国社会の変化を他山の石として、日本も「常識」を疑い、数字と暮らしの実感から制度を見直す視点を持つべき時期に来ているのではないでしょうか。
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