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世界経済に混乱を呼ぶトランプ関税。背後で糸を引くピーター・ナヴァロ氏とは?

作成者: 海外不動産コラム 編集部|2025.04.16

【この記事のポイント(Insights)】

  • トランプ政権は2025年、全輸入品に一律10%関税を課し、貿易黒字国にはさらに追加関税を上乗せする政策を導入した。
  • この強硬な関税政策の設計者がピーター・ナヴァロであり、彼は貿易赤字を他国の不正と見なし是正策として関税を重視している。
  • ナヴァロの政策は米国内外で賛否が分かれ、支持と批判が交錯する中、世界経済への影響は今後も続くと見られている。

2025年3月から4月にかけて、トランプ大統領の関税関連の発言が世界経済に深刻な混乱をもたらしています。

米国が全ての輸入品に一律で10%の基本関税を課す「一律10%関税構想」をベースに、貿易黒字国に対してさらに追加関税を上乗せするという方針は、WTO(世界貿易機関)から「国際ルール違反の恐れがある」と批判されています。日本も大きな影響を受けており、円高圧力や日経平均の乱高下など不安定な状況にあります。

米国はなぜ今、関税にメスを入れるのでしょうか? その背景を読み取るうえで最重要人物と言えるのが、トランプ政権の通商政策を担うピーター・ナヴァロ氏です。本記事では、彼の経歴や思想を紹介し、その影響力を読み解いています。

トランプ関税の設計者・ピーター・ナヴァロとは何者なのか?

ピーター・ナヴァロ氏は、2025年現在、トランプ政権において「通商・製造業担当上級顧問」という立場で関税政策を主導しています。彼は経済学者としてのバックグラウンドを持ち、ハーバード大学で経済学博士号を取得した後、長年にわたりカリフォルニア大学アーバイン校で教鞭を執ってきました。

ナヴァロ氏が政界で注目されるきっかけとなったのは、2011年に出版した著書『Death by China(邦訳:チャイナ・ショック)』です。この書籍では、中国の為替操作や知的財産権の侵害、国家補助金政策などを厳しく批判し、「中国は米国の製造業を破壊し、米国民の雇用を奪っている」と警鐘を鳴らしました。

この思想が、2016年のトランプ大統領選において「アメリカ第一主義」と合致し、彼はトランプ陣営の経済政策アドバイザーに抜擢されました。第一次政権時代もナヴァロ氏は通商政策の中心にいた人物であり、今回の第二次政権で再びその役割を担っています。

「貿易赤字は相手国の不正の証」とみなす独自の経済思想から、関税による是正を推奨

ナヴァロ氏の経済思想は、いわゆる主流派の経済学とは大きく異なります。特に特徴的なのは「貿易赤字は相手国の不正の証である」という独自の見解です。

多くの経済学者が貿易赤字を「国内の消費超過や投資需要の反映」と捉えるのに対し、ナヴァロ氏は「他国が不公正な手段で米国から富を奪っている」と考えます。この不均衡を是正するために、彼は関税を単なる罰則ではなく「是正ツール」と位置づけており、戦略的かつ永続的に関税を活用すべきと主張しています。

また、彼はリカードの比較優位理論にも懐疑的で、「理論上は成立しても、為替操作や国家主導の産業政策が横行する現実世界では機能しない」と述べています。自由貿易では米国の製造業は守れないと考え、関税によって製造業を国内に呼び戻す「オンショアリング」の必要性を訴えています。

さらに、ナヴァロ氏は関税政策を国家安全保障の問題と結びつけて論じています。彼は鉄鋼や半導体などの重要産業を海外に依存することは「経済的な主権の喪失」につながると警鐘を鳴らし、自給体制の構築こそが国家としての安全保障に直結すると訴えています。

保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」の中心人物としてトランプ関税に関与

2025年に入ってから導入された「一律10%関税」は、トランプ政権が進める包括的な通商戦略「Project 2025」の一環です。この政策は、トランプ政権に近い保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」が中心となって策定されており、ナヴァロ氏はその設計・推進の中心人物です。

この政策では、全ての輸入品に対して10%の基本関税を課すだけでなく、米国との貿易で大きな黒字を計上している国に対してはさらに「相互関税」と呼ばれる上乗せ措置を導入しています。たとえば日本には24%、中国には54%、EUには20%の追加関税が課される方針が示されました。

バイデン政権では多国間協調と自由貿易の維持が重視されましたが、トランプ政権はこれと対照的に「脱グローバル」「アメリカ製回帰」を前面に打ち出しています。その旗振り役となっているのがナヴァロ氏であり、「関税は交渉カードではなく、独立宣言だ」という言葉には、米国の自立を経済面から再構築するという強い意志が込められています。

国際的な批判はもとより、米国内でも分かれる賛否。

ナヴァロ氏の政策と思想は、米国内外で賛否を呼んでいます。

国際的には、日本やEUなどの同盟国が「友好国にまで高関税を課すのは信義にもとる」と反発しており、特に日本に対する24%という数字は、経済界のみならず政府関係者にも衝撃を与えました。一方、中国に対してはナヴァロ氏の強硬姿勢を評価する向きもあり、「不公正な貿易に対抗する姿勢は必要」と一定の理解を示す声も見られます。

米国内では、鉄鋼業や製造業を中心に「米国の雇用を守る政策」として支持する声がある一方、農業や小売業界からは「報復関税による損失が大きすぎる」と懸念が出ています。労働組合の一部はナヴァロ氏の路線を歓迎しており、「ようやく労働者に寄り添う政策が出てきた」との声もあります。

一方で、多くの経済学者やビジネス界からは懐疑的な見方が根強く、ウォール・ストリート・ジャーナルなどは「関税政策は消費者負担を増やし、サプライチェーンの混乱を招くだけだ」と批判しています。

また、ナヴァロ氏自身の信頼性にも疑問が呈されています。過去には自身の著書に「Ron Vara(ロン・ヴァラ)」という架空の経済学者の引用を用いていたことが発覚し、学術的誠実性を問う声が上がりました。さらに、COVID-19パンデミック時には科学的根拠に乏しい医療情報を推進したこともあり、公共政策の設計者としての適格性を疑問視する声も少なくありません。

トランプ大統領の背後で大きな影響力を手にしたナヴァロ氏。今後の米国経済やグローバル経済を考えるうえで、彼の思想は重大なヒントになるかもしれません。

 

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