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家と一緒に”ローンを買う”?米国の「アサマブル・モーゲージ」とは

作成者: 海外不動産Insights 編集部|2026.07.24

【この記事のポイント(Insights)】

  • アサマブル・モーゲージでは、買い手が住宅とともに売り手の金利や残存期間を引き継げる
  • 低金利ローンは住宅の「見えない資産」となり、売却価格と販売期間を左右する可能性がある
  • 日本人投資家の直接利用は難しいが、米国人の購買力や物件の流動性を理解するうえで知っておくべき仕組みといえる

「住宅ローンを買う」というと、奇妙に感じるかもしれません。しかし、「自身で新たに借りるよりも、はるかに低い金利のローンを前オーナーから引き継ぐ」と表現すれば、印象が変わるのではないでしょうか。

アメリカには、こうしたローン引き継ぎの仕組みがあります。30年固定住宅ローン金利が現在6%台で推移するなか、住宅によっては、売り手が保有する3%前後のローンをそのまま引き継ぐことができます。この仕組みが「アサマブル・モーゲージ」です。高金利下では、低金利ローンそのものが住宅に付随する「見えない資産」となり、売却価格や売れやすさを左右します。ただし、利用できるローンや買い手は限られており、誰もが住宅価格の全額を3%で借りられるわけではありません。

家だけでなく、金利と返済期間も引き継ぐ

アサマブル・モーゲージ(Assumable Mortgage)とは、住宅の買い手が売り手の住宅ローンを引き継ぐ仕組みです。買い手は、既存ローンの未返済元本だけでなく、金利、残りの返済期間、毎月の返済条件も原則として承継します。

たとえば、売り手が2021年に金利3%で30年固定ローンを組み、数年後に住宅を売却するとします。買い手は審査を通過すれば、その時点のローン残高と残りの返済期間、3%という金利条件を引き継げます。市場金利が6%台であっても、既存ローンの部分には3%が適用されるということです。

もちろん、売り手と買い手の合意だけで名義を変更できるわけではありません。買い手は所得、信用力、返済能力などの審査を受け、ローンサービサーや関係機関の承認を得る必要があります。ローンサービサーとは、金融機関などに代わって返済金の回収や残高管理、各種手続きを行う事業者です。

現在、一定の条件のもとで主に引き継ぎ可能なのは、FHA、VA、USDAなどの政府保証・保険付き住宅ローンです。FHAローンは連邦住宅局が保険を付けるローン、VAローンは退役軍人省が保証するローン、USDAローンは農務省が一定地域の住宅取得を支援するローンです。

米住宅都市開発省(HUD)の資料では、FHA保証ローンは原則として引き継ぎ可能とされています。ただし、自動的に承継できるわけではなく、ローンの組成時期や買い手の信用力などによって適用条件が異なります。

一方、米国で広く利用される一般的なコンベンショナルローンは、通常は引き継げません。ファニーメイやフレディマックが買い取るローンを含め、多くのコンベンショナルローンには、住宅を売却した際に残債の一括返済を求める「デュー・オン・セール条項」が設けられているためです。 証券化された既存ローンの契約を遡って変更し、引き継ぎ可能にすることも現実的には困難です。

では、3%のローンには、どの程度の価値があるのでしょうか。同じ30万ドルを30年間借りると仮定すると、金利3%の場合、毎月の元利返済額は約1,265ドルです。金利6.49%では約1,894ドルとなり、差額は約629ドルに達します。単純計算で年間約7,500ドルの違いです。

実際のアサマブル・モーゲージでは、すでに返済が進んでいるため、ローン残高や残存期間は物件ごとに異なります。それでも、3%前後と6%台の金利差が家計に大きな影響を与えることは分かります。

低金利ローンが住宅の「見えない資産」になった

アサマブル・モーゲージ自体は新しい制度ではありません。それが近年になって改めて注目されている理由は、既存ローンと新規ローンの金利差が大きく開いたからです。

米住宅金融大手フレディマックによると、米国の30年固定住宅ローン金利は2020年に平均3.20%、2021年には3.06%でした。 ところが、2026年7月9日時点では6.49%に上昇しています。一方で、既存の住宅所有者は低金利時代に組んだローンを持ち続けています。2025年第3四半期時点では、既存ローンの20%が3%未満で、全体の平均金利も4.4%にとどまっていました。

この金利差が、米国住宅市場の「モーゲージ・ロックイン」を生んでいます。低金利ローンを持つ所有者が住宅を売ると、その有利なローンを失い、次の住宅では現在の高い金利で借り直さなければなりません。そのため、転職、結婚、子どもの独立などで住み替える理由があっても、現在の住宅にとどまろうとします。

米連邦住宅金融庁(FHFA)の研究では、市場金利が既存ローンの金利を1ポイント上回るごとに、住宅が売却される確率は18.1%低下しました。ロックイン効果によって、2022年第2四半期から2023年第4四半期までに約133万件の住宅売買が阻まれたと推計されています。

売り物件が減れば、買い手が選べる住宅も少なくなります。同研究では、ロックインによる供給減少が住宅価格を5.7%押し上げ、高金利が需要を抑えて価格を3.3%下げる効果を上回ったと推計しています。金利上昇が住宅価格を下げるどころか、売り物件を減らすことで価格を支えてしまったのです。

アサマブル・モーゲージなら、売り手は審査と承認を経て、低金利ローンを買い手に引き継がせることができます。売却によって金利の価値が消えるのではなく、高い売却価格、買い手の増加、販売期間の短縮といった形へ転換できる可能性があります。

ただし、売り手自身が3%ローンを次の住宅へ持っていけるわけではありません。既存ローンを買い手へ譲れば、売り手が新居を買う際には、原則として現在の市場金利で新たなローンを組みます。

売り手がローンを次の住宅へ移せる「ポータブル・モーゲージ」とは異なり、アサマブル・モーゲージは売り手側のロックインを完全に解消する仕組みではありません。低金利ローンの価値を売却価格に反映できるため、売却の動機を多少強める可能性はありますが、住み替えを妨げる要因そのものは残ります。

3%ローンはいくらの価値を持つのか

低金利ローンの価値は、実際の住宅価格にも表れます。

オーストラリア国立大学などの研究者が米国14地域の物件掲載・取引データを調べた2025年公開の研究※では、アサマブル・モーゲージによる経済価値1ドル当たり約0.30ドルが、住宅の売却価格に反映される傾向が確認されました。また、引き継ぎ可能なローンが付いている住宅は、売却までの期間が約1週間短くなったといいます。

つまり、低金利ローンによって買い手が3万ドルの経済的利益を得られるとしても、そのすべてが買い手のものになるとは限りません。売り手が住宅価格を高く設定すれば、利益の一部は売り手へ移ります。

アサマブル・モーゲージは、買い手に無償で与えられる割引ではありません。高金利下では、低金利ローン自体が値段の付く資産になり、その価値を売り手と買い手が分け合う仕組みと考える方が実態に近いでしょう。

買い手は毎月の返済負担を抑えられます。売り手は物件の競争力を高め、高い価格や短い販売期間を期待できます。市場全体では、通常の金利では難しかった一部の取引を成立させる効果があります。

※この研究は2025年2月に公開されたワーキングペーパー(研究の途中経過や速報を広く公開し、専門家からの意見や批判を募る目的で発行する草稿)であり、査読済み論文であることは確認できていません。また、価格への反映度は地域の住宅需給、売り手の交渉力、賃貸住宅のコストなどによって異なります。すべての住宅で同じ効果が生じるわけではありません。

利用を阻む「住宅価格とローン残高の差」

これほど有利な仕組みであれば、もっと多く利用されてもよさそうです。しかし、実際の引き継ぎ件数は限定的です。

バイパーティザン・ポリシー・センター(Bipartisan Policy Center)の整理によると、米国には2025年時点で約5,200万件の既存住宅ローンがあり、そのうち制度上引き継ぎ得る政府系ローンは約23%でした。

ところが、2023年に実際に引き継がれたローンは約6,000件にすぎません。アーバン・インスティテュート(Urban Institute )によると、2024年度に引き継がれたFHAローンも、約780万件の既存ローンに対して6,000件未満でした。

利用が進まない最大の理由は、住宅価格とローン残高の差である「エクイティ・ギャップ」です。

たとえば、売値40万ドルの住宅に、金利3%、残高30万ドルの引き継ぎ可能なローンが付いているとします。買い手が3%で借りられるのは30万ドルだけです。残る10万ドルは、現金で支払うか、第2順位のローンなどで別途調達しなければなりません。

この10万ドルには、売り手が返済してきた元本と、購入後に上昇した住宅価値が含まれます。低金利ローンを組んでから時間がたち、住宅価格の上昇と元本返済が進むほど、エクイティ・ギャップは大きくなりやすいのです。

追加融資を利用する方法もありますが、第2順位ローンには現在の高い金利が適用されます。追加融資の割合が大きくなるほど、3%ローンを引き継ぐメリットは薄れます。

さらに、低金利ローンの価値を見込んで周辺相場より高い価格を提示しても、住宅の鑑定評価がその価格に届かないことがあります。融資額は通常、鑑定評価を基準に決められるため、評価額を超えた部分は買い手が現金で補わなければなりません。

手続き上の問題もあります。サービサーにとってローン引き継ぎは主力業務ではなく、経験や処理能力に差があります。売り手や不動産仲介人自身が、ローンを引き継げると知らないケースもあります。

こうした情報の非対称性を埋めるため、米国ではロームやアシュームリストなど、アサマブル・ローン付き住宅を検索・仲介するサービスも登場しました。 これまで住宅検索の条件といえば、価格、立地、広さ、築年数などでした。現在は一部の住宅で、「何%のローンが付いているか」まで物件の競争力を左右し始めています。

それでも、アサマブル・モーゲージは米国住宅市場全体のロックインを解消する万能策ではありません。条件の合う物件と、エクイティ・ギャップを埋められる買い手を結ぶ限定的な仕組みです。

日本人投資家が知っておくべき理由

FHA、VA、USDAローンは、基本的に米国での自己居住を支援する制度です。買い手には物件の居住要件に加え、米国内での所得、信用力、在留資格などに関する審査があります。

このため、日本に居住する投資家が、米国の賃貸住宅を購入するために利用する融資手段としては、現実的な選択肢になりにくいと考えられます。ただし、具体的な資格要件はローンの種類やサービサーによって異なり、日本人であることだけを理由に一律に利用できないわけではありません。

それでも知っておく価値があるのは、アサマブル・モーゲージが米国人実需層の購買力と住宅の流動性に影響するからです。

同じ40万ドルの住宅でも、3%ローンを引き継げる物件と、6%台で全額を借りる物件では、買い手の毎月の負担が異なります。低金利ローン付き住宅にはより多くの買い手が集まり、周辺相場より高く、早く売れる可能性があります。

日本人投資家が所有する住宅自体にアサマブル・ローンが付いていなくても、周辺の比較物件や米国人の購買行動に影響が及べば、地域の価格形成や出口戦略と無関係ではありません。一方で、その利用件数はまだ少なく、米国住宅市場全体の流通量を大きく支えているとまではいえません。

米国住宅の価値は、土地、建物、立地、家賃だけで決まるものではありません。誰が、どの金利で、どれだけ借りられるかという金融条件も、物件の売りやすさと価格を左右します。

今後は、引き継ぎ可能なローンを探す仲介サービスがどこまで普及するか、エクイティ・ギャップを埋める追加融資が整備されるか、そして政府が対象ローンの拡大を検討するかが焦点になります。

アサマブル・モーゲージはまだニッチな仕組みですが、「住宅とローンを別々に考えられない時代」を象徴しています。米国不動産を見る際には、物件そのものの条件だけでなく、その物件を米国人がどのような金融条件で買えるのかにも目を向ける必要があります。

 

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