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同じテック都市なのに、なぜ住宅市場に明暗?サンフランシスコとシアトルを分けたもの

作成者: 海外不動産Insights 編集部|2026.09.16

【この記事のポイント(Insights)】

  • サンフランシスコとシアトルでは、住宅の価格中央値だけでなく、売り出し物件数や取引件数にも違いが表れている。
  • 成長企業の存在が、個人の購買力や雇用への安心感にどうつながるかが、住宅需要を読むうえで重要となる。
  • 投資先を見極めるには、産業の成長性に加え、買い手・借り手の収入源と、競合する住宅の供給を見ることが重要だ。

 

米国西海岸を代表するテック都市、サンフランシスコとシアトル。高所得のIT人材が集まり、世界的な企業が経済を支えるという共通点を持つ2つの都市で、住宅市場の温度差が広がっています。売買価格の中央値は、一方で上昇し、もう一方では下落。どちらがどちらだか分かりますか?

本記事では、両都市の住宅市場の状況をお伝えするとともに、AIという成長産業が地域の住宅需要をどう変えるのかを考えます。企業の成長は、誰の所得や資産を増やし、どの住宅の需要につながるのか。2都市の比較から、不動産市場と成長産業の関係を読み解きます。

価格だけでなく、住宅の売れ方にも違い

不動産仲介大手Redfinが2026年9月2日に公表した比較分析では、7月の住宅市場に明確な差が表れています。以下は同社が集計する都市圏ベースの数値です。

2026年7月の指標 サンフランシスコ シアトル
住宅販売価格の中央値 約159万5,000ドル 約80万9,000ドル
価格中央値の前年同月比 6.0%上昇 3.6%下落
売り出し物件数の前年同月比 18.4%減少 16.7%増加
取引完了件数の前年同月比 8.5%増加 9.1%減少


サンフランシスコでは売り出されている物件が減るなかで取引が増え、シアトルでは選べる物件が増えても取引が減っています。売り手の力が増しており、価格上昇傾向とも整合します。

もっとも、中央値は「その時期に売れた住宅」を価格順に並べた真ん中の値であり、価格傾向全体を忠実に示すとは限りません。たまたま高額物件の取引が減れば、個々の住宅が値下がりしていなくても低下してしまいます。実際、同じ戸建ての再売買価格を追うRedfinの住宅価格指数では、7月分の前年同期比はサンフランシスコの13.3%上昇には遠くおよばないものの、シアトルも0.6%上昇でした。

つまり、シアトルの住宅が一律に値下がりしているわけではありません。それでも、価格指数の伸びの差に加えて、取引と売り出し物件数にも隔たりがある。今回注目したいのは、この市場の温度差がどこから生まれているかです。

 

サンフランシスコ ――高給に加え、資産価値が城主。住宅購入の後押しに

サンフランシスコを含むベイエリアでは、AI産業に関わる人々の購買力が高額住宅の需要を支えています。9月2日のAP通信は、AI企業の高所得者による数百万ドルの住宅購入を報道しました。買い手のなかには、自社株の売却益で現金で購入したり、大きな頭金を用意したりする人が含まれると伝えています。

住宅の購入余力は、年収だけで決まるものではありません。毎月の給与から返済する世帯は、借入額と金利が購入予算を大きく左右します。一方、すでにまとまった資産を持つ世帯は、それを頭金に回すことで借入額を抑えられます。同じ金利環境でも、購入をためらう人と、希望する住宅を買える人が併存する理由の1つです。

ここで大切なのは、資産の評価額と、実際に住宅に使えるお金を分けて考えることです。勤務先の企業価値が高まっても、保有する株式を自由に売却できるとは限りません。売却できる時期や条件、税負担によって、手元に残る資金は変わります。「AI企業に巨額の資金が集まった」というニュースだけでは、住宅購入に向かう金額までは分かりません。

テック企業が生んだ富と住宅価格の関係には、以前から注目が集まっていました。サンフランシスコ連邦準備銀行は2000年の分析で、地元テック企業の株価上昇が、ベイエリアの住宅価格を押し上げる資産効果を持つ可能性を示しています。これは当時のデータに基づく研究で、現在のAIブームの影響を直接測ったものではありません。ただ、「雇用が何人増えたか」に加え、「どれだけの購買力が地域に生まれたか」を考える視点は、今回の市場を見るうえでも役立ちます。

シアトル ――企業が成長しても、雇用が安定せず。住宅購入も慎重に

では、シアトルはAIブームから取り残されているのかというと、そう単純ではありません。シアトルを代表する企業のAmazonは、2026年4〜6月期にクラウド事業「Amazon・ウェブ・サービス(AWS)」の売上高を前年同期比37%増やしました。クラウドは、企業などが外部のコンピューター資源をインターネット経由で利用する仕組みで、AIの開発や運用も支えています。この意味では、シアトルもブームの恩恵を受けているのです。

一方で、同社は1月に、全社で約1万6,000の職務を削減すると発表しています。会社側の説明は、組織の階層や官僚的な手続きを減らすというものです。この人数はシアトルだけの削減規模ではありませんし、将来重要と考える分野では採用と投資を続けるとしてはいますが、短期的には地域の所得に負の影響が及びそうです。そしてこの人員削減の主要な理由の1つには、AIによる仕事の代替があると見られています。

企業の成長と従業員の雇用の安定は、必ずしも両立しません。ある事業の需要が伸びても、社内のすべての部門で採用や昇給が進むとは限りません。収益の拡大と組織の再編が同時に進む場合もあります。

住宅購入では、いまの収入だけでなく、今後も返済を続けられるという見通しが重要になります。仮に高い給与を得ていても、転職先や勤務先での役割に不安があれば、大きな借入を伴う購入を先送りすることは合理的です。失業した人だけでなく、仕事を続けている人の判断にも、雇用環境への不安は影響し得ます。

Redfinの経済調査責任者チェン・ジャオ氏も、サンフランシスコではAI関連の投資や富が住宅購入を支える一方、シアトルでは既存テック企業の人員体制の見直しが、一部世帯を慎重にしていると分析しています。ただし、これは市場の違いを説明する見解であり、AIだけの影響を切り出した因果分析ではありません。

投資家が企業の決算を見るときには、売上や利益の成長が中心になります。しかし、その企業が立地する街の住宅を考えるなら、成長の恩恵がどの職種や世帯に届いているのか、というもう一段細かな確認が必要です。

住宅供給が増えにくいサンフランシスコと、在庫の伸びが確認できるシアトル

両都市の価格傾向の差は、供給の面からも説明できます。

サンフランシスコ市の計画局が4月に公表した報告書によると、2025年に市内で純増した住宅は2,669戸でした。前年からは増えたものの、10年平均の3,622戸を約26%下回っています。これは新築だけでなく、既存建物の改修や取り壊しなども反映した住宅ストックの増加です。都市圏の売買統計と範囲は異なりますが、市内で住宅が増えるペースを確認する材料になります。

住宅には、供給を急には増やしにくい性質もあります。需要が強いと分かっても、土地の確保から設計、許認可、建設を経て、入居できる状態になるまでには時間がかかります。すでに住宅が建ち並ぶ地域の、特定の間取りや立地に人気が集中するなら、別の場所に住宅を増やしても、その競争がすぐに解消されるとは限りません。

一方、シアトル周辺では、別の資料からも購入時の選択肢が増えている様子を確認できます。不動産会社間で物件情報を共有するノースウエストMLSによると、シアトル市を含むキング郡の7月末の売り出し在庫は、前年同月末比23.7%増えました。先のRedfinとは地理的な範囲や集計方法が異なるため数値は一致しませんが、物件を比較する余地が広がっている点は共通しています。

ただし、売り出し在庫が増えることと、新しい住宅が大量に建つことは別です。売主が増えた場合だけでなく、買い手が慎重になり、売れるまでに時間がかかる場合にも在庫は積み上がります。供給の多さを見る際には、その背景が新築の増加なのか、既存住宅の売却なのか、取引の停滞なのかを分ける必要があります。

「成長産業のある街」から、実際の買い手・借り手へ

投資家目線で注意いただきたいのは、今回の2都市の比較は「どちらを買うべきか」を示す順位表ではないことです。どちらかというと、エリアに成長産業があることは、住宅の需要にどのような影響をおよぼし得るのかを学ぶモデルケースとして捉えるのがよいでしょう。

成長産業は、物件の買い手や借り手の収入を大きく変えますが、物件需要が一律に伸びるわけではありません。AI企業の経営幹部が購入する高額住宅と、周辺の幅広い勤労世帯が借りる住宅では、需要の源泉が異なります。都市全体で見ると価格上昇にあっても、そのまま自分の物件の家賃も上げられるとは言えないのです。

また、好調さはすでに購入価格に織り込まれている可能性もあります。需要の強い地域でも、家賃に比べて購入価格が高くなれば、投資の採算は取りにくくなります。逆に、取引が鈍い地域では価格交渉の余地が生まれる可能性がありますが、入居需要まで弱くなっていれば、安く買えるだけでは十分ではありません。値上がりへの期待と、家賃から費用を差し引いて得られる収入を、両方見る必要があります。

さらに見過ごせないのが、特定産業が生み出す富は、住宅需要の強みであると同時に、その産業への依存でもあることです。企業価値や報酬への期待が変わったとき、影響がどの価格帯に届くのか。人口の増減だけでなく、需要を支える家計の変化にも目を向けたいところです。

今後は、両都市で新規の売り出しに対して購入契約がどれだけ成立するか、価格帯別の売れ方がどう変わるかを追うと、需要の持続性を判断しやすくなります。賃貸物件なら、さらに周辺の家賃、空室、完成予定の住宅を重ねて確認する。世界的な企業があるという看板から、目の前の住宅に住む人の暮らしまで視点を近づけることが、地域の成長を投資判断に生かすための一歩になります。

 

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