【この記事のポイント(Insights)】
世界の住宅市場に、静かな変化が広がっています。中国、英国、カナダ——国ごとに事情は異なるものの、「価格が上がらない」「売れにくい」「買い手が様子見に入る」といった共通の兆しが、同時多発的に観測され始めました。
2008年のような急崩壊ではありません。しかし、住宅市場が成長のエンジンから、経済の足かせへと性格を変えつつある国が増えているのも事実です。では、この世界的な冷え込みは、米国住宅市場にも同じ結末をもたらすのでしょうか。それとも、米国はまだ“別の道”を歩める余地があるのでしょうか。
本記事では、世界の住宅市場で何が起きているのかを整理したうえで、その冷え込みがどのルートを通じて米国に波及し得るのか、そして米国住宅が共倒れを免れるとすれば、どこにクッションがあるのかを考えます。
このところ、世界のいくつかの住宅市場で同時多発的な冷え込みが観測されました。すべての国が一斉崩落しているわけではありませんが、不調の国の「鈍化の型」は似通ってきています。価格が急落する前に、まず取引が止まり、心理が冷え、制度や信用への不安が積み重なる——そんな共通のプロセスが観測されている代表的な国は以下の3ヶ国です。
中国:住宅価格が下がり続けることで、経済全体の重荷に
中国の不動産市場の弱さは最近はじまったものではありませんので、今さら中国か、と思う方もいるかもしれません。しかし、不動産市場の冷え込みは、いまや中国経済全体をも冷やす段階に入っています。景気の鈍化が不動産をさらに沈ませる——この悪循環が、回復の条件を厳しくしています。
住宅価格の下落が長期化し、家計資産の大きな部分を不動産に依存してきた構造が、消費マインドを押し下げました。さらに注目すべきは、民間デベロッパーだけでなく、国有色の強い大手デベロッパーでも資金繰り不安が取り沙汰されている点です。「ここは安全」と見なされてきた層にまで不安が波及することで、不動産市場は価格以上に“信頼”を失いつつあります。
重要なのは、中国の問題を「中国固有の失敗」と切り捨てないことです。中国は世界需要の大きな一角を占める存在であり、その住宅市場の停滞は、世界経済の体温計が下がっているサインでもあります。
英国:価格というより「売りやすさ」が落ちている
英国の住宅市場では、より分かりやすい形で変化が現れています。不動産情報サイトのデータによれば、11月の新規売出し住宅の平均希望価格は、4週間で-1.8%と大きめに下落しました。この時期としては、2012年以来の下げ幅です。
ただし、英国で起きているのは「暴落」ではありません。売り物件は増えているものの、買い手は慎重で、価格を下げても売れるとは限らない。結果として、市場の回転が鈍くなっています。
不振の背景には、財政・税制をめぐる不確実性があります。このケースは、「制度や税制が将来期待を冷やすと、住宅市場は価格以上に動かなくなる」ことを示す好例と言えるでしょう。
カナダ:利下げで持ち直しかけたが、再び息切れ
カナダでは、中央銀行の利下げを受けて住宅市場が一度持ち直しかけました。しかし、その勢いは長続きしていません。トロント圏では11月の販売件数が前月比-0.6%、価格指数も-0.4%。前年同月比では価格が-5.8%と、弱さがはっきりしています。
ここで象徴的なのは、「金利が下がっても、雇用や景気の先行き不安が買い手心理を抑える」という点です。住宅市場は金利だけで動くわけではなく、将来に対する安心感に強く左右されることが分かります。
翻って、米国はどんな状況にあるのでしょうか? 現時点では、一部地域で不振が見られるものの、全米を俯瞰すると取引は低調でも価格が大崩れしていません。また、世界の住宅市場の冷え込みは、直接的に米国住宅価格を押し下げるわけではありません。しかし、今後影響を及ぼす可能性があるのも事実です。
ここでは、米住宅市場に冷たい隙間風が入り込む3つのルートを考えてみます。
ルートA 資産効果:価格が崩れるより先に、“買わない理由”が増える
世界の住宅市場が冷えると、最初に起きるのは価格下落ではありません。「自分の資産は大丈夫か」「今は動くべき時期ではないのではないか」という感覚が広がり、様子見が増えることです。
この影響は、米国でも特定のセグメントに表れやすいと考えられます。高額帯住宅、セカンドホーム、投資目的の購入——こうした領域ほど、買い手は急ぐ必要がなく、判断を先送りしがちです。
もっとも、米国は一気に崩れにくい材料も持っています。住宅ローン金利が高止まりしていても、既存所有者の返済負担が急増しにくい構造があるため、売り急ぎが起きにくい。この点は、後述するクッションの伏線になります。
ルートB 信用:世界経済が守りに入ると、米国でも「新しい借り入れ」が難しくなる
ここでは、住宅の価格ではなく、住宅を動かす燃料としての信用に注目します。メカニズムはこうです。
世界の不動産市場でストレスが高まる
→ 金融機関がリスク回避に動く
→ 資金コストがじわりと上がり、審査が厳しくなる
→ 米国でも住宅取引や新築供給に影響が出る
このルートの特徴は、「効くまでに時間がかかる」ことです。だからこそ、融資姿勢やスプレッドの変化といったサインを早めに捉えられれば、過度な悲観に傾かずに済みます。実際、米国の住宅建設業界では、需要の鈍さを認識しつつも、インセンティブや価格調整を使って「売り切ろう」とする動きが見られます。
ルートC 資金フロー:米国住宅は“考えず飛びつける安パイ”から、“じっくり目利きすべき対象”へ
ここでいう資金フローとは、海外投資家による米国住宅購入の増減(対米不動産投資の流れ)を指します。米国住宅市場は、自国民だけでなく海外投資家にも支えられていますが、その動きはグローバルな市況に大きく左右されます。
現在のところ、フローはプラスに働いています。海外投資家による米国住宅購入は増加しています。2024年4月から2025年3月までの1年間で、外国人による既存住宅購入額は$56B、件数は78,100件と前年比で大きく増えました。これは、米国の法制度の分かりやすさや、資産保全先としての性格が評価されていることを示しています。
一方で、マイナスに振れる可能性も忘れてはいけません。世界不況や本国の事情によって、米国資産を売却して現金化する動きが同時に起こる可能性もあります。
重要なのは、どちらか一方に決め打ちしないことです。局面によって風向きは変わる。米国は世界から隔離された勝ち組ではありません。むしろ“世界マネーの出入り口”だからこそ、波の影響を受けます。ただ、波が来ても、すべてが沈むわけではありません。
短期に出やすいのは資産効果(心理)、中期で効きやすいのが信用(融資)、資金フローは局面次第で振れ幅を増やします。
クッション1:30年固定が支える“売り急ぎの起きにくさ”
米国の住宅ローンは30年固定が中心で、90%以上が固定金利です。この仕組みにより、「金利上昇→返済急増→投げ売り」という海外で見られがちな連鎖が起きにくくなっています。これは米国住宅市場の粘りを語るうえで欠かせない柱です。
クッション2:金利が下がっても上がっても、供給は急に増えにくい
在庫が急増しない限り、住宅価格は崩れにくい——これは一般論ですが、米国では特に当てはまります。
低金利期に借りた所有者が売却をためらう「ロックイン効果」により、供給は急には増えません。金利の上下だけで需給が崩れにくい構造です。
クッション3:国際マネーが動く時、まず住宅が揺れるとは限らない
世界がリスクオフに傾けば、米国債などに資金が向かい、長期金利が低下する可能性があります。これは住宅ローンにとって追い風になり得ます。ただし、FRBの政策金利と住宅ローン金利は直結しません。この点を過度に単純化しない視点も重要です。
世界の住宅市場が冷え込めば、米国も無風ではいられません。しかし、米国住宅が世界と同じ形で崩れるかどうかは、まだ決まっていません。資産効果、信用、資金フローという3つのルートを見極めつつ、クッションが効いている間に、何が起きるのかを観察する。今の米国住宅市場は、そのフェーズにあります。
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