【この記事のポイント(Insights)】
不動産(property)とテクノロジーを組み合わせた「プロップテック」は、世界のビジネスシーンのトレンドワードの1つになっており、様々な企業やサービスが日夜誕生しています。一方で、変化の早い環境に適応できず、倒産へと追い込まれる企業も少なくありません。今回は、ユニークなビジネスモデルで注目されながらも倒産の憂き目にたったイギリスのプロップテック企業「Houzen」を消化します。
2017年にイギリスで創業したプロップテック企業であるHouzen社は、不動産の賃貸や売買に「ダイナミックプライシング」を取り入れたことで注目を集めました。
ダイナミックプライシングは日本語では動的価格設定と訳される概念で、需要と供給、競争、顧客の行動、季節的な要因など、リアルタイムで変動する要素に基づいて価格を調整する戦略を指します。というと難しそうに聞こえますが、ホテルや航空券の料金を思い浮かべていただくとすぐに理解できます。これらの料金は、GWや夏休み、年末年始などには高騰し、オフシーズンは安価になります。主に観光産業で用いられることの多い戦略ですが、最近ではアパレルや雑貨などの小売業のECサイトにも取り入れられ、セール時の割引率調整などに用いられています。
ダイナミックプライシングは、売り手の利益を最大化するための戦略です。高く売れるものを安く売るのはもったいない、けれど高く設定しすぎて売れなければ意味がない。そこで、過去のデータをAIに学習させ、売れ残りを最小化しつつ、利益を最大化するための価格を算出するのです。
Houzen社はこのダイナミックプライシングを不動産取引に持ち込みました。賃貸物件を例にすると、航空チケットで言うところの売れ残りは空室で、価格は賃料です。同社のサービスでは、AIが賃貸市場のデータを分析し、エリアやシーズン、物件スペック毎の需要を予測。最適な賃料設定やターゲットマーケットの特定を行います。これにより、物件オーナーは空室を迅速に埋めることができ、収益を最大化できるというサービスです。
倒産したというわりには、筋が良さそうだなと感じた方もいるかもしれません。実際、創業から3年間で、Houzenのサービスを用いた物件では、入居者が決まるまでのスピードが2~3倍高速になり、家賃も地域の水準より10~18%ほど高い価格で成約したと言います。VCや投資家からもビジネスモデルや技術力を高く評価され、通算で少なくとも数百万ポンド(数億円)の資金調達を行っています。
好調なスタートを切ったHouzen社が倒産するに至ったのは、パンデミックの影響が大きいと考えられます。
パンデミックによる環境の変化は、Houzen社のビジネスを直撃しました。パンデミック初期は住み替えが激減したため、不動産取引そのものが減りました。
その後、働き方や住居に関する人々の考えが変わったことで、新しい不動産需要が生まれるなど、業界全体としてみればチャンスもありましたが、Houzenの強みは過去のデータに根ざした需給予測です。それまで注目されなかった郊外の物件が値上がることを定性的に予測することはできても、いくらに価格設定するべきか、定量的に裏付けるデータはありません。そうなると、物件オーナーとしてはHouzenのサービスを用いるメリットが無くなってしまったわけです。
その後の同社の経営状況を追ったニュース等は見当たりませんが、2024年6月現在、イギリス政府が運営するCompanies House(企業情報提供サイト)によると、Houzen社は「Active proposal to strike off(削除提案中)」というステータスで、これは解散手続きの最中であることを意味します。企業Webサイトも、すでに存在しません。
有望かのように見えた企業・サービスが、環境の変化により消えていく様に、諸行無常を感じずにはいられません。
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