【この記事のポイント(Insights)】
UBSが発表した「Global Real Estate Bubble Index 2025」で、米フロリダ州のマイアミが世界で最もバブルリスクの高い都市に選ばれました。高級リゾート地として世界中の富裕層を惹きつけてきたこの街が、なぜ「リスクの象徴」となったのか。
背景にあるのは、単なる価格上昇ではなく、所有コストと制度不安の複合リスクです。本稿では、マイアミ市場の現状を整理しながら、「崩壊した場合の波及」と「軟着陸の条件」を考えていきます。
スイスの投資銀行UBSは、毎年発表する世界の都市のバブルリスクレポート2025年版で、マイアミのバブル指数を1.73と評価しました。これは2位の東京(1.59)やチューリッヒ(1.55)を抑えて世界ワーストの数字です。前年よりやや低下したものの、2年連続で世界一の座を維持しており、同社の基準で高リスクに位置づけられる1.5も大幅に上回っています。UBS指数は価格/所得・価格/賃料・与信・建設動向などの合成指標であり、マイアミは価格/賃料比率と価格/所得比率の両方が世界最高水準に達していると指摘しています。
背景には、コロナ禍を機に広がったリモートワーク移住と富裕層マネーの集中があります。温暖な気候、州所得税ゼロ、ビジネスフレンドリーな環境が、ニューヨークやシリコンバレーからの移住者を引き寄せました。中南米や欧州からの投資マネーも流れ込み、富裕層同士が物件を奪い合う構図が生まれたのです。
しかし、こうした特需が落ち着いた2024年以降、マイアミでは一般的な実需層が市場から排除されつつあります。地元の中間所得世帯にとって住宅価格はもはや手の届かない水準で、価格と実体経済の乖離が極端に広がっています。UBSが指摘するように、これは「過熱の最終段階」であり、冷却のタイミングを待っているような状態です。
さらに見逃せないのが、「表の価格」と「裏のコスト」の乖離です。マイアミでは、近年住宅保険料・共益費・修繕積立金が急上昇しています。特に保険料は、ハリケーン被害の多発と保険会社の撤退が重なり、2025年の平均保険料が全米平均の約5倍前後(推計により若干の幅あり)に達しました。築古マンションでは、サーフサイドの崩落事故を契機に法改正が行われ、構造検査と修繕積立の義務化が進行中です。この結果、管理費が倍増した物件も少なくありません。
つまりマイアミは、見た目の価格だけでなく、維持コストの高騰と制度的負担が重なった“複層的バブル”に陥っているのです。富裕層主導で上昇してきた価格が、保険・共益費・修繕負担によってじわじわと支えを失いつつある——。それが現在の姿です。
仮にこのバブルが崩壊した場合、どう波及していくのでしょうか。まず想定されるトリガーは、高金利の長期化と保険市場の再悪化です。
住宅ローン金利が6%台で高止まりする中、実需の買い手は減少。富裕層も含めた買い控えが進めば、在庫が積み上がり始めます。そこに、保険会社の撤退や再保険料の上昇が再燃すれば、所有コストが限界を超えた売却ラッシュが起こる可能性があります。さらに、連邦の洪水保険制度(NFIP)は短期延長を繰り返し一時空白が生じるリスクを孕んでいます。停止時はローンの新規・更新審査が滞り、クロージング(契約完了)が進まなくなる。取引そのものが止まる「制度的ショック」もあり得ます。
まず影響を受けるのは海沿いの高額住宅地です。マイアミビーチやコーラルゲーブルズなどの高級エリアでは、取引価格がわずかに下がるだけでも数十万ドル規模の損失となり、投資家心理が一気に冷え込みます。次に、内陸部や中価格帯エリアに波及し、価格調整が段階的に連鎖します。こうした構図は、2006〜2008年の全米バブル崩壊にも似ていますが、今回の特徴は“信用リスクではなく所有コストリスク”にあります。
全米への影響は限定的と見られるものの、市場心理の逆回転は避けられません。マイアミの調整がニュースとなれば、ロサンゼルスやニューヨークなど高価格都市でも投資家が慎重になり、資金が中西部や南部の「現金フロー重視型」市場に移るでしょう。国際的にも、マイアミ不動産を組み入れたファンドやREITが損失を出せば、投資家のリスク許容度が下がり、ロンドン・ドバイ・東京などの高価格都市にまで“冷気”が伝わるかもしれません。
ただし、リーマン・ショック時との決定的な違いがあります。当時はサブプライムローンによる信用連鎖が崩壊を拡大させましたが、現在のマイアミ市場は現金取引が全体の4割超を占めています。過剰債務による連鎖破綻の危険性は低く、金融システムへの波及リスクは限定的とみられます。崩壊の形は、金融危機というより「高級市場の局地的調整」になる可能性が高いでしょう。
では、崩壊を避けて市場が軟着陸するためには何が必要なのでしょうか。鍵となるのは、金利・保険・制度という三つの要素が“同時に安定”することです。
まず1つ目は金利です。FRBがインフレ鎮静化を確認し、段階的に利下げへ向かえば、ローン金利は5%台へと緩やかに低下する見通しです。これにより月々の返済負担が軽減し、実需層の購買力が一部回復します。「高すぎて買えない」状態から「やや手が届く」水準へ戻れば、価格の急落を防ぐクッションになります。
2つ目は保険市場。フロリダ州政府は2022年以降、保険金請求訴訟の抑制や再保険支援制度の拡充など、保険市場安定化に向けた改革を進めています。これにより、民間保険会社の再参入が相次ぎ、公的保険(Citizens Property Insurance)の契約数も減少傾向にあります。保険料の上昇率はすでに鈍化し始めており、この流れを維持できれば市場心理の安定に寄与するでしょう。
3つ目が制度リスクです。NFIP(洪水保険)の長期再認可や、マンション修繕積立金義務化の段階的実施といった“予見可能な制度運用”が不可欠です。突然の規制強化や制度空白が起これば市場が揺らぎますが、透明で一貫した政策運営ができれば、投資家の信頼を取り戻すことができます。
もう1点、補足的に追加すると長期的には気候変動への適応投資も重要です。ハザードリスクを見える化し、海抜の高い立地や耐風設計を重視することで、保険加入のしやすさと資産価値の安定を両立できます。こうした“リスクを管理する街づくり”が進めば、マイアミは「危険な高値市場」から「成熟したプレミアム都市」へと再定義されるかもしれません。
高リスクを指摘されているマイアミの不動産。それでも所有する必要がある場合には、「値上がり」より「手残り」にフォーカスして吟味するのが良いでしょう。
まず、収益性は実効キャッシュフロー(ネット利回り)で判断すること。家賃収入から、管理費、税金、保険料、HOA(共益費)、修繕積立、ローン返済をすべて引き、手元にいくら残るかを試算します。そのうえで、想定より保険料が1〜2割上がってもDSCR(返済比率)が1.25以上を維持できるかを確認しましょう。マイアミでは「購入時より保険料が倍になった」という例も珍しくなく、ストレステストは必須です。
次に、立地の再定義です。海沿いの絶景物件は確かに魅力的ですが、ハリケーンリスクや保険料を考慮すれば、海抜が高く、洪水マップ上で安全なエリアの方が長期的に安定します。また、州政府が安全基準を強化している新築・耐風住宅は、保険料が抑えられやすいという利点もあります。「風景」より「保険加入性」を優先する、そんな逆転の発想が今後は重要です。
出口戦略も早めに設計しておきましょう。短期転売(フリップ)で利益を狙う相場ではなくなっており、5〜10年の保有を前提に、賃貸運用や家具付き中期滞在など複線的な出口を持つことがリスクヘッジになります。資金余力があれば、フロリダ一本ではなく、中西部のキャッシュフロー型市場やニューヨーク・サンフランシスコの安定賃貸市場と組み合わせてポートフォリオを分散させるのも賢明です。
以下は、よくある誤解とそれに対する回答です。
Q:現金取引が多いなら安全では?
A:確かに借入による信用リスクは小さいですが、買い手が富裕層に偏るほど市場の“裾野”は狭くなります。為替や税制の変化で国際資金が引けば、一気に流動性が失われるリスクがあります。
Q:価格が下がったらチャンス?
A:価格が下がっても、保険料や修繕積立が上昇していれば「総支払額」は下がりません。
価格だけを見て飛びつくと、維持費で赤字になるケースもあります。
Q:新築の沿岸物件なら安心?
A:建築基準は強化されていますが、リスクエリアである限り保険料は依然として高額です。
“立地の安全性”と“保険加入の容易さ”を優先すべきです。
マイアミのバブル懸念は、単なる価格の問題ではなく、価格の高さ×所有コスト×制度不安定という三重構造から生まれています。特殊な構造で生じているリスクゆえに、崩壊が起きたとしてもリーマンショック級の信用危機に発展する公算は低いでしょう。
とはいえ、地域経済の冷え込みは避けられませんし、他地域の高級市場にも影響が及ぶかもしれません。マイアミの不動産市場がどう転ぶのか、その行く末に注目が集まっています。
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