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バークシャーはなぜ今“住宅”に投資するのか?テイラー・モリソン買収が示す米国住宅市場の次の10年

作成者: 海外不動産Insights 編集部|2026.06.10

【この記事のポイント(Insights)】

  •  バークシャーが買ったのは住宅会社というより、「土地・建築・金融・賃貸」を束ねる住宅プラットフォームである。 
  •  高金利で住宅市場が停滞する今だからこそ、長期的な住宅不足に賭ける投資家には好機に映る。 
  •  この買収は住宅価格の反発予想ではなく、米住宅業界の再編と集約への賭けと見るべきだ。 

 

2026年5月末、バークシャー・ハサウェイは米大手住宅会社テイラー・モリソン(Taylor Morrison)を約85億ドルで買収すると発表しました。

住宅ローン金利は依然として6%台にあり、住宅購入のハードルは高いままです。ハーバード大学住宅研究センター(JCHS)は近年の住宅取得環境を歴史的にも厳しい水準として位置づけており、多くの市場関係者も米住宅市場を低迷局面とみています。そんな中で行われた大型買収は、多くの投資家を驚かせました。

しかし、バークシャー・ハサウェイの歴史を振り返ると、この動きは決して異例ではありません。同社は常に目先の景気や市場心理ではなく、10年後も残る需要に投資してきました。今回の買収もまた、単なる住宅会社買収というより、米国住宅市場の構造変化を見据えた長期的な賭けと考える方が実態に近いでしょう。

バークシャー・ハサウェイが大手住宅会社テイラー・モリソンを買収 

バークシャー・ハサウェイはテイラー・モリソンを1株72.50ドルで買収します。買収総額は株式価値ベースで約68億ドル、企業価値ベースでは約85億ドル。これは発表前営業日(5月29日)の終値58.50ドルに対して約24%のプレミアムでした。買収は2026年後半の完了が見込まれ、完了後にテイラー・モリソンは非上場化されます。

テイラー・モリソンは全米12州・21市場で350を超えるコミュニティを展開する大手住宅会社です。2025年には約13,000戸(12,997戸)を引き渡し、住宅引き渡し売上(home closings revenue)は約78億ドルに達しました。全米シェアでは6位前後に位置し、最大手ではないものの、住宅業界では有力プレーヤーの一角を占めています。

ただし、同社の特徴は単なる住宅建設会社ではないことにあります。住宅ローンを提供するテイラー・モリソン・ホーム・ファンディング(Taylor Morrison Home Funding)、タイトル保険会社、住宅保険サービスを保有し、さらに近年はBuild-to-Rent(BTR)ブランドのヤードリー(Yardly)も展開しています。住宅の建設から金融、さらには賃貸までをカバーする事業モデルを築いているのです。

今回の買収は、ウォーレン・バフェット氏の後継として2026年初にCEOへ就任したグレッグ・アベル氏のもとで実行された、最初期の大型戦略買収の一つでもあります。アベル氏は買収について「住宅への長年のコミットメントの延長線上にある」と説明しました。この言葉は重要です。なぜなら、バークシャー・ハサウェイは今回初めて住宅事業に参入したわけではないからです。

なぜ“今”なのか――市場は悪いが、需要は消えていない

住宅市場の足元だけを見ると、今回の買収は逆張りに見えます。2026年5月時点の30年固定住宅ローン金利は6%台後半。テイラー・モリソン自身もその影響を受けており、2026年第1四半期の住宅引き渡し売上は前年同期比約28%減の13億ドル、引き渡し戸数も約26%減の2,268戸に落ち込みました。

もっとも、足元の数字には底堅さも混ざっています。同四半期の受注キャンセル率は、前年同期の11.0%から10.0%へとむしろ低下し、2024年第3四半期以来の低水準となりました。さらに、注文住宅(to-be-built)の受注構成比が前四半期の28%から38%へ上昇するなど、投機的な在庫販売に頼らない実需の動きも見えています。引き渡しが減ったのは需要が消えたからではなく、高金利が取得能力を抑え込んでいるためだと読む方が自然です。

実際、ミレニアル世代やZ世代による世帯形成、人口移動、老朽住宅の更新需要など、住宅を必要とする人々は依然として存在します。今の問題は需要不足ではなく、本来存在する需要が高金利によって市場に現れていないことです。言い換えれば、今の米住宅市場は「住宅が不要になった市場」ではなく、「欲しい人は多いが買えない市場」なのです。

ハーバード大学住宅研究センターは近年、住宅市場の最大の問題として供給不足を指摘し続けています。短期的な販売不振があったとしても、長期的には住宅供給が需要に追いついていないという構造は変わっていません。バークシャー・ハサウェイは、まさにその構造に賭けているのでしょう。

本命は“住宅販売”の先にある顧客基盤や金融プラットフォーム、BTR市場かもしれない

今回の買収を理解するうえで最も重要なのは、バークシャー・ハサウェイが住宅会社そのものを買ったわけではないという点です。むしろ住宅エコシステム全体を強化するための一手と考えるべきでしょう。

実はバークシャー・ハサウェイは以前から住宅関連事業を幅広く保有しています。住宅建設を手掛けるクレイトン・ホームズ(Clayton Homes)をはじめ、床材メーカーのショー・インダストリーズ(Shaw Industries)、断熱材メーカーのジョンズ・マンビル(Johns Manville)、レンガメーカーのアクメ・ブリック(Acme Brick)、塗料メーカーのベンジャミン・ムーア(Benjamin Moore)、建築システム企業のマイテック(MiTek)、さらには不動産仲介大手のバークシャー・ハサウェイ・ホームサービシズ(HomeServices of America)まで抱えています。

つまり、住宅を建てるための材料から販売まで、すでに広範な事業基盤を持っているのです。そこへテイラー・モリソンが加わることで、「建材 → 建築 → 住宅ローン → 仲介 → 賃貸」という一連の流れがさらに強化されます。

その狙いは、アベル氏自身の発言にも表れています。同氏は買収にあたり、テイラー・モリソンとクレイトン・ホームズの戸建て建設事業を一つのプラットフォームに統合する方針を示しました。両社を合算すると年間の引き渡しは約2万3,000戸規模となり、D.R.ホートン、レナー、パルトグループに次ぐ全米4位の住宅建設会社に並ぶとの試算もあります。買収の本質が「一社の取り込み」ではなく「住宅プラットフォームの増強」にあることを、当事者自身が明言しているわけです。

特に注目すべきは金融部門です。テイラー・モリソンの住宅購入者は、その大半が同社グループの住宅ローンを利用しており、いわゆる「自前の金融」を住宅販売に密接に結び付けています。顧客層の信用力も高く、頭金や年収の水準が相対的に厚いことが、安定した金融収益の基盤になっています。バークシャー・ハサウェイが欲しかったのは住宅そのものではなく、住宅取得を支える顧客基盤や金融プラットフォームだった可能性があります。

もう一つ見逃せないのがBuild-to-Rent(BTR)です。Build-to-Rentとは、最初から賃貸運営を前提に戸建て住宅を開発するモデルです。近年の米国では、「持ち家は欲しいが価格が高すぎて買えない」という層が急増しました。その結果、「戸建てに住みたいが所有にはこだわらない」という需要が拡大しています。

テイラー・モリソンはヤードリーブランドを通じてこの市場に参入しています。現在のBTR市場は規制強化議論や資金調達環境の悪化もあり、成長ペースは一時期より鈍化しています。しかし戸建て賃貸の稼働率は依然として高く、多くの専門家は長期的な成長余地を指摘しています。

もし将来、「持ち家を持たない家族」がさらに増えるのであれば、BTRは住宅市場の重要な受け皿になるでしょう。バークシャー・ハサウェイは持ち家市場だけでなく、その先にある賃貸市場の変化にも備えたポジションを手に入れたと考えられます。

住宅業界再編を見越した長期投資と捉えるのが妥当

今回の買収が象徴するもう一つの変化があります。それは住宅建設業界の再編です。

現在の住宅建設業界は、土地取得コスト、建材価格、人件費、金利上昇という複数の圧力に直面しています。その結果、規模の小さい住宅会社ほど事業運営が難しくなっています。

一方、大手企業は資金調達力や土地在庫、サプライチェーン、金利補助(レート・バイダウン)の余力によって優位に立つことができます。前述のとおり、バークシャーはテイラー・モリソンとクレイトンの統合で一気に全米トップクラスの建設規模を手にしようとしており、これは「規模の経済」を取りにいく動きそのものです。

バークシャー・ハサウェイによるテイラー・モリソン買収は、「今後は大手しか生き残れない」という単純な話ではありません。しかし少なくとも、住宅市場が規模の経済を求める方向へ進んでいることを示しています。住宅建設業界は今後、「地域の住宅会社」から「巨大住宅プラットフォーム」へと重心を移していく可能性があります。

投資家の立場で注意すべきなのは、バークシャー・ハサウェイが住宅価格の短期的な上昇に賭けたわけではないという点です。同社が注目しているのは、住宅不足、人口移動、世帯形成、業界再編、戸建て賃貸といった長期トレンドです。住宅価格が来年上がるかどうかは誰にもわかりません。しかしバークシャー・ハサウェイは、「10年後も住宅は必要であり続ける」という前提に立って行動しています。

だからこそ、高金利によって市場参加者の多くが弱気になっている今、大型投資に踏み切ったのでしょう。バークシャー・ハサウェイがテイラー・モリソンを買収した理由は、住宅市場が好調だからではありません。むしろ逆です。市場が不人気で、評価が抑えられている今だからこそ、長期的な住宅需要に対して有利なポジションを取れると考えたのでしょう。

今回の買収は、米住宅市場の底打ち宣言ではありません。しかし少なくとも、「米国の住宅不足は終わっていない」「住宅産業の再編はこれから本格化する」というメッセージとして読む価値があります。

見方を変えれば、バークシャー・ハサウェイが買ったのは住宅会社ではありません。住宅不足が続く時代の住宅エコシステムそのものだったのかもしれません。

 

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