【この記事のポイント(Insights)】
カリフォルニア州の小さな海辺の町、カーメル・バイ・ザ・シー(Carmel-by-the-Sea)。
観光地として知られると同時に、「ハイヒール禁止」「住所表記なし」「チェーン店不可」といった数々のユニークな規制で有名です。住民たちはこの厳しいルールを誇りとし、町のブランドを守り続けてきました。
しかし今、この町で外部の大富豪が手がける開発計画をめぐり、住民と開発者の対立が激しくなっています。米国ではよくある構図に見えますが、今回のケースは全国的な注目を集めています。その背景をたどると、「保存か供給か」という普遍的な問いが浮かび上がってきます。
カーメル・バイ・ザ・シーは、サンフランシスコから車で約2時間半、人口わずか4,000人ほどの小都市です。白い砂浜と松林に囲まれた景観は美しく、20世紀初頭から芸術家や作家が移住して「芸術家の街」として知られるようになりました。クリント・イーストウッドが市長を務めたことでも有名です。
この街が独特なのは、景観や文化を守るための規制が徹底している点です。たとえば:
こうした規制は単なる“奇抜さ”ではなく、芸術家や文化人が築いてきた街の雰囲気を守るための仕組みです。日本にたとえるなら、歴史的建造物を守る京都や鎌倉、あるいは田園調布や芦屋のように住民ルールでブランドを維持してきた高級住宅地に近いと言えるでしょう。
そんな「規制の街」で、いま大きな開発紛争が起きています。仕掛け人はモナコ出身の大富豪、パトリス・パストール氏です。世界中で不動産開発を手がけてきた人物で、地元ではホテルや歴史的建築を修復してきた実績もあります。
今回の計画「JB Pastorプロジェクト」は、商業スペースと住宅を組み合わせた複合施設で、その中には20戸の長期賃貸住宅も含まれていました。Carmelのように住宅価格が240万ドルを超える街では、長期賃貸は貴重な存在です。
この計画は6年にわたって修正が重ねられ、市の計画委員会では最終的に全会一致で承認されました。ところが、いざ実行に移ろうとした段階で住民の猛反発を受けます。
住民の主張は「駐車場が不足する」「ゾーニング規制に違反している」「街の景観が壊れる」。11名の住民が控訴し、市議会は採決を延期する事態となりました。
パストール氏はこの決定を受けて「不公平だ。われわれは歓迎されていない」と憤り、投資撤退を示唆。町の未来を揺るがす問題へと発展しています。
米国では開発紛争は珍しくありません。NIMBY(Not In My Back Yard=うちの裏庭にはいらない)の合言葉のもと、集合住宅や商業施設への反発は全国で見られます。
それでもカーメルのケースが全米で報じられたのは、以下の理由によります。
つまりこれは、単なるローカルニュースではなく、米国の都市が抱える課題を象徴する事例なのです。双方の言い分をまとめると以下です。
住民の声:街の価値を守るために
住民にとって、Carmelは単なる居住地ではなく「芸術家の街」としてのブランドが命です。
「規制を外部資本のためにねじ曲げれば、街の一体性が壊れる」という危機感が強くあります。
反対派の住民からはこんな声が聞かれます。
「この街を一人の大富豪のやりたい放題にさせるわけにはいかない」
「歴史と景観を犠牲にしてまで新しい建物はいらない」
これは日本の田園調布で“高層マンション建設”が持ち込まれたときに予想される反応と重なります。ブランドを守るための強い住民意識が背景にあるのです。
開発者の声:住宅不足に応えるはずだった
一方のパストール氏は、「カーメルは住宅が高すぎ、長期賃貸が不足している。私の計画はその問題を緩和するものだった」と主張します。
さらに、過去10年間で1億ドル以上を投資してきた実績を挙げ、「承認を得ているのに住民の声で覆されるのは不当だ」と反発しました。
開発者から見れば、これは地域に雇用と住宅をもたらす「合理的なプロジェクト」に過ぎなかったのです。
この構図は「どちらが正しいか」では片づけられません。
どちらも合理的な論理を持ちながら、両立は難しいのが現実です。
カーメルでの対立は、「保存か供給か」という普遍的な問いを私たちに投げかけています。日本でも鎌倉や田園調布のように、ブランドと開発のバランスが問われる場面は少なくありません。住民自治と外部資本、保存と供給という相反する価値が衝突したとき、どちらを選ぶか――その選択は世界の多くの都市にも当てはまります。
「ハイヒール禁止」のユニークな規制都市で起きたこの騒動は、街の未来をどう描くべきかを私たちに問いかけているのです。
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