【この記事のポイント(Insights)】
ニューヨーク・マンハッタンのパーク街に、総工費30億ドル(約4,400億円)の巨大オフィスが完成しました。建設したのは米金融大手JPモルガン・チェース。延床面積は250万平方フィートに達し、最大14,000人の社員を収容できる超大型本社です。
パンデミック後の米国では「オフィス不要論」が強まり、多くの企業が床面積縮小や郊外移転を進めてきました。にもかかわらず、なぜJPモルガンは逆張りの巨額投資を決断したのか。この動きは本当に「大規模オフィス需要復活」の兆しなのか、それとも例外なのか――不動産市場の潮流を読み解きます。
JPモルガンが建てた新本社「270 Park Avenue」は、高さ423メートル・60階建て、ニューヨーク最大規模のオール電化オフィスビルです。設計は英建築家ノーマン・フォスター率いるFoster + Partnersが担当し、建物全体を水力発電由来の電力で賄うネットゼロ・ビルとして完成しました。
内部には社員専用ジム、瞑想室やクリニック、さらには19店舗が入るフードホールやアイリッシュパブまで備えられており、もはや「働く場所」というより企業キャンパスに近い存在です。自然光を通常より30%多く取り込む設計や、屋上庭園・公開広場などの緑地空間も確保されており、働く環境の快適性が徹底的に追求されています。
パンデミック以降、世界中でオフィス縮小が進む中での30億ドル投資は、まさに「逆張り」の象徴です。JPモルガンCEOのジェイミー・ダイモン氏は「この建物はニューヨークへの長期投資の象徴だ」と述べており、オフィス市場においても例外的な一手と言えます。
2020年以降、リモートワークが急速に広がり、オフィス稼働率は大きく低下しました。ニューヨーク中心部でも2025年夏時点で出社率は調査者により多少の振り幅があるものの概ね平常時の6割前後にとどまり、老朽化ビルやB/Cグレード物件では空室が目立っています。実際、直近の統計では全米のオフィス空室率は過去最悪の20%超に達し、サンフランシスコでは27%近くに及びます。
その一方で、立地が良く最新設備を備えたクラスA+のプレミアム物件は強い需要を維持しています。企業は「古いビルを安く借りる」のではなく、「高くても質の良いオフィスを選ぶ」という“フライト・トゥ・クオリティ(質への逃避)”の動きを鮮明にしています。
ただし、「床面積の縮小傾向」そのものは続いています。2023年には半数以上の企業がオフィス縮小を計画し、2024年以降も多くの企業がサブリースやスペース削減で対応してきました。ハイブリッドワークが定着したことで、従来のような“巨大オフィスに全員集める”モデルは一般的ではなくなっています。市場全体では「小さくても高品質なオフィス」が選ばれるのが主流になっているのです。
それでは、なぜJPモルガンはこの潮流に逆らって超大型オフィスを建設したのでしょうか。背景には複数の狙いが絡み合っています。
これらを総合すると、JPモルガンにとって新本社は単なる「器」ではなく、企業文化・人材・ブランド・規制対応を統合した“象徴的資産”と位置づけられるのです。
JPモルガンの新本社建設は、市場に明るい話題を提供しました。しかし、これをもって「大規模オフィス需要が復活した」と考えるのは危険です。
米国のオフィス市場全体は依然として余剰供給に苦しみ、地方都市やB/Cクラスのビルでは空室率が高止まりしています。需要が集中するのはごく一部の新築・好立地・高機能ビルに限られており、全体の潮流が好転したわけではありません。
つまり、JPモルガンの事例は「勝ち組物件だけが強い」という市況を象徴するものであり、一般的なオフィス市況を映すものではありません。これは住宅市場にも似ています。築古や立地に難がある住宅の価格は下がる一方、好立地・高品質の住宅は高値を維持する――不動産全体が“どこでも上がる時代”から“選別の時代”へと移行しているのです。
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