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Compass対Zillow。米国の不動産テック大手が物件情報の透明性をテーマに対立。

作成者: 海外不動産Insights 編集部|2025.07.07

【この記事のポイント(Insights)】

  • Zillowが導入した新ルールにより、非公開物件戦略が制限され、業界に波紋を広げている。
  • Compassはこれを独占的行為と主張し、Zillowを反トラスト法違反で提訴した。
  • 物件情報の「透明性 vs 売主の裁量」を巡る対立は、消費者にも影響を及ぼす可能性がある。

 

米国不動産業界で今、2つの巨大企業が真っ向から対立しています。物件情報の透明性を巡って火花を散らしているのは、急成長中の仲介企業Compass(コンパス)と、不動産情報サイト最大手のZillow(ジロー)です。争点となっているのは、「物件情報は誰にどのタイミングで開示されるべきか?」という、売買当事者にとっても重要な問い。本記事では、両社の対立の背景、訴訟の内容、そして私たち消費者にとっての意味をわかりやすく解説します。

Zillowが設けた新ルールに、Compassが反発

発端となったのは、Zillowが2025年5月に導入した新たな掲載ルール「Listing Access Standards(リスティング・アクセス基準)」です。このルールにより、Compassが得意としていた「一部の買い手にだけ早期公開し、その後に一般公開する」という販売戦略が事実上使えなくなりました。

Zillowの新ルールは、「一般に一度でも公開された物件は、24時間以内にMLS(複数業者間の物件共有システム)に登録されなければ、Zillowには一切掲載されない」というもの。たとえば、Compassが自社の顧客だけに情報を限定公開し、その後MLSに掲載してからZillowに掲載しようとした場合でも、すでに1日以上経っていればZillowから締め出されることになります。

このルールの背景には、「透明性のある不動産市場をつくる」というZillow側の大義があります。Zillowは「情報が一部の人だけに共有されることで、買い手が不公平な立場に置かれてしまう」と主張。すべての物件情報は、最初からすべての消費者がアクセスできる状態であるべきだというのが、Zillowの立場です。彼らは自社サイトが「全国の買い手の窓口」であるという自負もあり、情報の偏在を放置することがブランド毀損につながるという危機感から、新ルールを設けました。

一方、Compassはこれに強く反発しました。同社は、プライバシーを重視する富裕層の売主などに向けて、「1.社内ネットワークで限定的に売り出す」「2. MLSに登録する」「3. Zillowなどの他社サービスに登録する」という3段階戦略を展開してきました。1の反応を見て、2,3へ公開する前に価格や条件を調整することができるこの戦略は、売主にとってリスクの少ない売却方法として一定の支持を得ており、Compassの差別化要素にもなっていました。

Zillowの新ルールは、こうした段階的なマーケティング手法を使えなくするものです。Compassはこれを「競合企業の差別化を意図的に潰すもの」だとして、反発を強めていきます。

 

新ルールは「独占的」であるとして訴訟にまで発展

対立の結果、2025年6月、CompassはZillowを相手取り、ニューヨーク連邦地裁に反トラスト法(独占禁止法)違反で訴えを起こしました。

Compassの訴えの主張は明確です。「Zillowは、自社に都合のいい物件情報しか掲載せず、競合企業のマーケティング戦略を潰そうとしている」「RedfinやeXp Realtyと共謀して、Compassのような戦略を排除しようとしている」。このように、Zillowの動きは公正な競争を妨げるものであり、市場における支配力の乱用だと訴えています。

一方、Zillow側はCompassの主張を「事実無根」と一蹴。「我々は消費者の利益を守るために、すべての買い手に平等に物件情報を提供しようとしているだけだ」と反論しています。Zillowはまた、「たとえCompassがZillowの掲載基準を満たさなくても、掲載しない自由はZillowにある。無料で掲載する義務はない」とも述べており、法的にも正当な行為であるとしています。

訴訟の現在の状況は、Compassが差し止め命令(仮処分)を申し立て、Zillow側はこれに対して反論書を提出した段階です。裁判所はこの主張の応酬を受け、2025年9月にも仮処分の是非について判断を下す見込みです。それまでは、Zillowの新ルールが有効に働き続ける状況となっています。

 

売り手や買い手に及ぶ影響は?

今回の対立は、売り手や買い手にとっても無関係ではありません。たとえば、売り手がCompassのエージェントに販売を依頼した場合、Zillowに物件が掲載されない可能性が出てきます。Zillowは米国最大の物件検索サイトであり、買い手の多くが日常的に利用しています。そこに掲載されないということは、潜在的な買い手にアプローチできる機会を逃す可能性を意味します。

また買い手側にとっても、「Zillowを見ていれば全物件にアクセスできる」という安心感が揺らぐことになります。実際、Compassの非公開物件の中には、Zillowでは表示されない物件が少なくとも数千件存在しているとされ、買い手にとっては「見えない在庫」があることになります。

ただし、市場全体で見れば、Zillowが非掲載とした物件数はまだごく一部であり、大半の物件は引き続きZillowでも閲覧可能です。また、MLS上には掲載されているため、Compassに連絡すればアクセス可能な物件も多いのが実情です。

それでも、今回の対立は「物件情報の透明性とは何か?」という根本的な問題を浮き彫りにしました。「すべての情報を最初から公開すべきだ」というZillowの立場と、「売主の事情に応じて、戦略的に情報を公開していくべきだ」というCompassの立場。どちらが正しいかは一概には言えません。

裁判の行方次第では、今後の米国不動産業界のビジネスモデルに大きな影響が出る可能性もあります。日本から米国不動産に投資を検討している人にとっても、情報アクセスのあり方は重要な関心事。今後の動向に注目が集まります。

 

 


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