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「税投入ナシの国際イベント」は可能なのか? ロサンゼルス五輪の挑戦

作成者: 海外不動産Insights 編集部|2025.11.12

【この記事のポイント(Insights)】

  • 2028年ロサンゼルス五輪は、公共資金に頼らない“ノー・ビルド”モデルで開催予定
  • 大会を通じて、都市インフラやスマート運営基盤の整備を加速
  • 「何を残さないか」という新しい価値観が、今後のイベント像を変えていく可能性も

先日、閉幕を迎えた大阪・関西万博。開幕前の心配をよそに、来場者の多くは「気になる部分はあれど、満足のほうが大きい」と評価しており、印象としては成功に終わったと言ってもいいのではないでしょうか。一方で、税負担の大きさや建設費増加をめぐる批判は根強く残っています。しかし、国際規模のイベントを税負担なしに実現することなど、本当に可能なのでしょうか?

この難業にトライしようとしているのが、3年後の2028年に夏季オリンピックが開かれるロサンゼルスです。ロス五輪では、財政負担の比率を、民間資金:公共資金=約10:0(つまり、公費負担ゼロ!)にすることを明言しています。運営者たちはどのようにしてそれを実現しようとしているのか、「ノー・ビルド(建てない)」のスローガンに象徴される建設戦略とともに紹介します。

公費ゼロを掲げるロサンゼルスモデルの背景と運営構造

二度目の五輪開催となるロサンゼルス。実は1984年五輪は、史上稀に見る黒字を達成した大会として語り継がれています。その経験を礎に、2028年大会も「公費に依存しない五輪」を掲げて準備が進められています。大会の運営主体であるLA28組織委員会は、民間主体の非営利法人。IOCからの拠出金やスポンサー収入、チケット販売、ライセンス契約といった民間ベースの収益で、大会全体の予算をまかなう構造です。

ロサンゼルス市およびカリフォルニア州は、あくまで万が一の損失保証という位置づけで、基本的には大会の赤字を直接補填する責任は負わない方針となっています。運営側は、保守的な予算策定に加え、複数の保険契約を活用しながら、リスクヘッジを徹底しています。

ノー・ビルド方針──「建てない」ことで、コストの大部分を占める建設費を圧縮

2028年大会の最も特徴的な点が「ノー・ビルド(No Build)」方針です。これは、新たに恒久的な競技施設を一切建設せず、既存のスタジアムや大学施設、映画スタジオのロケ地などを最大限活用するというものです。

メイン会場となるロサンゼルス・メモリアル・コロシアムやソーファイ・スタジアム、NBAやMLBの本拠地などは、いずれも既存の商業施設です。また選手村はUCLAの学生寮、報道陣の宿泊施設にはUSCのキャンパスが活用される予定で、選手村すら新築しないという徹底ぶりです。

これにより、巨額の建設費が不要となるだけでなく、大会終了後の“使い道のない遺構”を街に残すことも避けられます。さらに、仮設構造物にはBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やデジタルツインを導入し、持続可能かつ効率的な施工・運営を可能にする狙いもあります。

「ノー・ビルド」の方針に呼応するように、ロサンゼルス市は公共インフラ整備に力を注いでいます。とくに「28 by '28」と呼ばれるプロジェクト群は、地下鉄延伸や空港アクセス鉄道の整備、高速バスレーンの導入、自転車インフラの拡充など、五輪をきっかけにロサンゼルスの交通を刷新するものです。

五輪を契機にこれら28件の交通プロジェクトすべてを前倒しで完成させるという壮大な目標は、現実には一部の遅延が避けられない見通しです。それでも18件以上が五輪前に完成見込みとされており、特にLAX空港の鉄道アクセス整備は、市民生活の質を大きく変えることが期待されています。

また、大会運営においては「トランジット・ファースト(公共交通優先)」を掲げており、観客は専用シャトルや鉄道・バスを使って会場に向かう設計です。競技会場には原則、観客用の駐車場は用意されず、クルマを前提としない都市構造のトライアルとも言えるでしょう。

五輪を”口実”に進める、スマート都市への進化

ロサンゼルスは、2028年大会に向けた整備を通して、都市そのものを「スマート化」する試みにも挑戦しています。「Smart LA 2028」構想のもと、交通、防災、エネルギー、治安、健康など都市運営のあらゆる分野を、デジタルで統合管理するOSのように変えていく構想です。

具体的には、センサーやカメラ、5G通信、AI分析を駆使し、リアルタイムの都市モニタリングと対応を可能にする統合プラットフォームが構築されつつあります。これにより、緊急対応の迅速化や群衆制御、都市間接費の削減といった成果が期待されます。

こうしたインフラにはGoogleやUberなど、ロサンゼルスを拠点とするテック企業の技術も積極的に導入されており、スマート都市としてのショーケース機能も果たすことになります。

もちろん、都市への還元も設計済みです。PlayLAプログラムでは、地域の青少年にスポーツ参加の機会を提供し、大会前から約200万人を対象に支援が始まっています。また、地元企業への優先調達制度や、中小事業者支援も強化されています。

環境面でも「Resilient by Nature」構想のもと、都市の緑化や災害対策への投資が進められています。ロサンゼルス大会のスローガンである「Follow the Sun(太陽を追いかけろ)」は、明るく、持続可能で、開かれた都市の未来像を象徴しています。

こうした抜本的な改革は、何かきっかけがないと進みづらいものです。五輪はある意味、都市を進化させるための”口実”としても機能しているのです。

“何を残さないか”を突き詰めて目指す、軽やかな五輪

ロサンゼルス大会の設計思想は、「五輪のあとに何が残るか」ではなく、「何を残さないか」でもあると言えます。税負担の残らない運営、恒久施設を残さない会場設計、民間資金でまかなう予算構造。こうした“軽量な五輪”こそが、現代に求められるイベント像であるという提案です。

これまでは、国際的なイベント開催には、必ずといっていいほど重い税負担がつきまとってきました。そうした中で、ロサンゼルスが示そうとしているのは、ハコモノに頼らず、税金に依存せず、それでも都市と市民にポジティブな変化をもたらす「軽やかなイベント」のかたちです。

このモデルが成功すれば、今後の万博や五輪の在り方も大きく変わるかもしれません。ロサンゼルス五輪は、単なる一大会にとどまらず、都市の未来に向けた実験場なのです。

 

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