米国株式市場は上昇基調を続けているが、高値警戒感も台頭している。企業業績は今のところ順調な状況であるものの、トランプ関税に関する各国との交渉過程や連邦政府予算審議の動向は、将来の株価の不透明材料となって、株式市場参加者の信頼感にも大きな影響を与えている。
機関投資家へのアンケートを基にした米国株式市場の今後1年間の上昇期待を示す「株式信頼感指数」を見ると、引き続き1年間で株価上昇を見込む割合は、幾分低下しているが75.8%と高い割合を維持している。その一方で、今後6ヵ月以内に1929年(世界恐慌)や1987年(ブラックマンデー)のような株式大暴落が発生する可能性を示す「株価暴落予想指数」は2025年5月を底に上昇に転じ、41.3%となっている。これまでは米国株式を中心とした資産ポートフォリオが高いパフォーマンスを上げてきたが、高値警戒感が高まるなかで、徐々に資産ポートフォリオの分散を高めることに関心が高まっていることが窺える。
図表1:米国株式市場信頼感指数
注:機関投資家に対するアンケート結果
出所:イェール大学国際金融センター(https://som.yale.edu/centers/international-center-for-finance/data/stock-market-confidence-indices/united-states)
米国株式市場に対する高値警戒感は、歴史的な株式バリュエーションの高さがある。景気循環を調整したPER(株価収益率)(1)であるCAPEを見ると、1929年の世界大恐慌を引き起こした暗黒の木曜日、1999年末からのドットコムバブル崩壊までに株価が極端に割高であったことが読み取れる。また、現在の株価は、1929年の水準を超えて、過去2番目の高さにある。米国株式が直ちに暴落しないまでも、いずれかのタイミングでは調整が生じてもおかしくない。
近年の株価調整を振り返ると、1987年のブラックマンデー、2007年のサブプライム危機の市場変動が大きかった。その間は20年であり、同様の時間軸で考えるならば次の調整は2027年となる。ブラックマンデーは、インフレによる利上げや貿易赤字によるドル安、西ドイツの利上げによるルーブル合意のドル安是正の失敗など、様々な要因があったと言われる。しかし、当時の高金利環境と各国協調の不足は、現在の状況と類似する点には注意が必要だろう。
(1):PERは、株価が当該企業の一株あたり純利益の何倍かを示す投資尺度である。PERが高ければ株価が割高であることを示している。
図表2:景気循環調整後(CAPE)
出所:ROBERT SHILLER(http://www.econ.yale.edu/~shiller/data.htm)
FRBは10月から利下げを再開した。この動きは不動産市場を下支えすることが予想される。過去を振り返っても、FF金利が低下すると、やや遅れて住宅価格指数が上昇することが読み取れる。
図表3:FF金利とケースシラー住宅価格指数(前年比)
注:網掛け部分は景気後退期を示す
出所: セントルイス連邦準備銀行
投資資産としての米国住宅市場と米国株式市場の特徴を見たい。1988年1月から2025年7月までのリスクリターンを見ると、米国住宅市場のリターン(平均)とリスク(分散)は、FF金利よりも高いが米国株式よりも低いというミドルリスク・ミドルリターンの特性がある。また、資産間の関係性を見ると、FF金利と米国住宅市場は小幅なマイナスとなっている。ここからもFF金利の低下は米国住宅市場の上昇に繋がる可能性が読み取れる。
このリスクリターン関係を前提とすれば、米国住宅価格指数は、FF金利が1%低下すると、9.1%上昇することが推測される(2)。仮に、現在のFF金利が4.3%であり、FOMC参加者の長期的なFF金利の予測が3%(中央値)まで低下する場合、米国住宅価格は12%程度の上昇が予想される。
また、米国住宅市場と米国株式市場の相関はプラスであり、米国株式市場が下落すれば、米国住宅市場もまた下落要因となる。しかし、先ほどのリスクリターンの違いにも表れているように、米国住宅市場の下落幅は米国株式市場の下落幅より小さいことが見込まれる。これは、前述の通り、金利低下は米国住宅市場を下支えする要因となるためである。
このようなリスクリターン特性を踏まえると、米国株式市場からの投資分散を図る上で、米国住宅市場は有効な手段であると考えられる。直ちに米国株式の調整が生じる局面ではないだろうが、FRBの利下げ余地が残る現在は、今後の株価変動への備えを徐々に進めるタイミングであろう。
図表4:米国不動産と米国株式のリスクリターン関係
<FF金利・米国不動産・米国株式の平均・分散>
<FF金利・米国不動産・米国株式の相関係数>
注:米国住宅価格指数はケースシラー全米住宅価格指数の前年比、米国株式はS&P500の前年比
出所:FactSet
(2):1987年1月から2025年7月のデータを基に推計。推計結果は、ケースシラー全米住宅価格指数(対数値)=5.21-0.091×FF金利. 修正R2=0.537. P値は1%未満で有意。