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利下げ再開の可能性を探る米国不動産市場

作成者: 海外不動産コラム 編集部|2025.07.22

トランプ政策の効果が試される局面へ

2025年下期に入るなか、トランプ大統領が打ち出した政策効果が本格的に表れる段階になってきた。4月に相互関税を打ち出した後、世界経済は大きな変化を展望して、その準備を行ってきた。特に貿易関連では、3月までに駆け込み輸入を行った影響から、物価高や消費低迷の影響は、今のところ限定的である。しかし、今後の企業活動については、今後の政策運営を予想しつつ、企業の生産計画を見直す可能性もある。米国企業のみならず、世界全体でディール後の世界への対応を本格化させる段階に入っている。

トランプ関税による各国とのディールも徐々に合意が見られ始めたが、その過程で、関税による米国政府の増収分を米国内外の企業が負担する構造が浮き彫りになっており、物価は当初予想されたほどに高まっていない。米国では減速懸念が高まるものの、依然として底堅い経済指標も散見されている状況は、米国以外の負担増が相応の大きさに上っていることを示唆している。その点で、米国1強の構造には大きな変化は窺えない。

米国の経済政策の不確実性は依然高い水準にあるものの、4月頃と比べて大きく低下している。これまでトランプ政治に振り回されてきたが、多くの人はトランプ疲れの側面はあるものの、トランプ大統領の政治手法にようやく慣れてきたともいえるだろう。

図表1:米国の経済政策不確実性指数

出所:Economic Policy Uncertainty

米国の不確実性を政策別の要因に分けてみると、金融政策、財政政策、貿易政策ともに不確実性が低下している。貿易政策の進展のみならず、一時懸念されたFRB議長の解任を実行しないことで、金融政策に対する不確実性も低下している。大規模な減税・歳出法案(「大きく美しい法案(Big Beautiful Bill=BBB)」)の成立によって、米議会予算局(CBO)は10年間で3.4長ドルの財政悪化を見込んでいる。しかし、関税の引き上げは財政悪化をある程度緩和し、トランプ減税の延長等は追加的な財政悪化ではない。財政赤字拡大に対する危機感がやや後退していることも、財政政策に対する不確実性の低下につながっていると思われる。

その一方で、世界的な紛争は長期化しており、世界の地政学リスクに起因する不確実性が高まる状況には、引き続き注意が必要である。トランプ政権の不確実性に慣れてきた一方、依然として国際的な緊張の高まりは突発的なリスクとなる。今後も、地政学リスクに起因する一時的な市場の変動幅の拡大には留意する必要がある。

図表2:米国の政策別不確実性と世界の地政学リスク

出所:Economic Policy Uncertainty

FRB利下げ再開の環境が整いつつある

今後のトランプ関税の効果を見極める必要はあるものの、関税による物価上昇の影響はあくまでも一時的なものに過ぎない。米国の基調的なインフレ圧力は徐々に低下しており、雇用環境の変化にも関心が高まっている。今のところ、米国経済は減速しつつも、底堅さを保っているが、企業活動は慎重化しつつあり、大手企業の雇用削減の動きも報じられている。このような状況下、金融当局者の米国経済に対する見方も割れているとみられる。

2025年6月に公表されたFRB参加者の金融経済見通しを見ると、前回3月予想と比べて、物価見通しが上昇修正されたとともに、政策金利の見通しもやや上昇修正されていた。2025年については、現状維持を予想するFOMC参加者の数が多くなったが、中央値が変わらなかったことは、年2回の利下げを予想する参加者に変化が見られなかったためである。ここからも現状維持派と利下げ派がほぼ半数に分かれていることが窺える。

図表3:2025年6月FOMC参加者のFF金利の見通し

注:ドットはFOMC参加者が予想するFF金利を示す。折れ線グラフは各年末のFF金利見通しの中央値を示す。
出所:FRB

その後、パウエルFRB議長も、仮にトランプ関税の影響がなかったら利下げを行う可能性があるとの発言もあり、ややハト派的な情報発信となった。FOMCメンバーの中でも、金融政策の自由度を高める観点から、トランプ政権との対立は必ずしも中央銀行の独立性を高めることに繋がらないとの警戒感も生じていると思われる。このような環境下、金融市場でも、年内利下げ再開を意識する展開となっている。金融市場では、年内2回以上の利下げを95%程度の発生確率で織り込んでおり、このうち年内3回以上の利下げ期待も70%程度に上る。

図表4: 市場が織り込むFRBの利下げ回数(%) 

注:1回の利下げを0.25%とした場合の数字
出所:FactSet

FRBの利下げ再開を金融市場が織り込み始めると、実際に利下げを実施する前であっても、期待先行で長期金利は低下圧力を強めるため、住宅ローン金利にも低下圧力が波及するだろう。足元では、米国不動産は価格上昇とローン金利の高止まりによって、売買がやや鈍化する状況にあった。このような状況も変化の可能性がある。

これまでもFF金利の低下は米国住宅価格の上昇を促してきた。米国経済はやや景気減速の兆しが見られるものの、リセッション入りの可能性は乏しく、また米国株式市場もトランプ関税を受けた急落分を戻して、高値水準にある。このようなスピード調整を経た今、金利低下期待の高まりは、不動産市場にも大きなサポート材料となるだろう。その点で、再びFRBの動向に注目が集まっている。トランプ大統領とFRBとの対話にも再び焦点があたるだろう。

図表5:FF金利と米国住宅価格の変化

注:網掛けはFRBの利下げ局面を示す。
出所:FactSet

 

執筆日:2025.7.4